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押見修造『おかえりアリス Vol.1』:ブロンド少女は過激に美しく

『惡の華』、『血の轍』ですっかり虜となった押見修造作品。彼の『おかえりアリス Vol.1』を読んだ。『惡の華』と同様に根暗な男と可憐な女、その間に魔性の悪魔を配置する構図であり、当然ながら押見修造独自の技術を余すことなく展開し、全ページ修羅場な作品となっているのだが、またしても彼の手綱に裏切られた。

テニス場で突っ立っているメガネの男・洋ちゃん。彼は他人の人生を生きているのが遠くに微かに映る姿から匂う。そこへ球が転がり、可憐な女・三谷結衣がやってくる。顔を赤らめる彼。そんな彼をからかうように慧ちゃんがからんでくる。彼の手ほどきでオナニーの方法を知った洋ちゃんは背徳感に溺れ、結衣ちゃんの残像に己を濡らす。そんなある日、慧ちゃんと結衣ちゃんが接吻を交わすところを目撃してしまう。裏切られた憎しみと、トラウマで慧ちゃんとはもちろん、結衣ちゃんとも顔を合わせられなくなる。そうこうしているうちに、慧ちゃんは引っ越してしまう。

時が経ち、高校進学した洋ちゃんは高校デビュー心機一転、結衣ちゃんに告白を試みる。不器用ながらも関係修復の実感を掴んだ刹那、何故か彼のことを知るブロンド少女が現れる。可愛いが、初対面にして洋ちゃんの間合いにスッと入り込み腕を組み、卑猥なことを浴びせる。

誰なんだ彼は?

彼は慧ちゃんだった。

押見修造は、人間に対する恐怖をクローズアップで描く。間合いを極端に詰め、羞恥心を刺していく。そして逃げようとも、トラウマが追いかけてくるように魔性の存在が全速力で追いかけ、主人公の進行方向に聳え立つ。ヒロインですら、遠くから心の中の存在でいたい主人公の想いとは裏腹に間合いにスッと侵入し、官能的な表情を魅せ、恥じらい、緊張、本能を揺さぶり続ける。

主人公の逃避行は、読者の予想を厭らしく裏切ってくる。

今回の場合、女性として現れた慧ちゃん。トランスジェンダーの話かと思いきや、「僕は一応男ですが 男はもう降りました」と語る。トイレは男性トイレを堂々と使う。男を降りただけで女性ではないというのを執拗に強調してくるのだ。

『惡の華』では魔性の女が登場したが、今回は性別を超えた、本能の悪魔として洋ちゃん、結衣ちゃんの前に現れ、彼のリセットされた人生を破壊しにやってくるのだ。周囲の人に過去を明かされたくない想い、官能的存在が渦巻く空間によって表情が歪む。

精神、肉体的侵入が激しさを増す中、Vol.2へと続く。パワーアップした押見修造ワールドに期待を抱きました。


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