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俺とTHE BACK HORN

体の底からしびれるような感覚は後にも先にもこの1回だけだった。
他のアーティストに出会ったときも衝撃は受けたことはもちろんあるのだが、自分の探求心を刺激し、言葉にできなかった感情に対して音や歌詞、その他表現全てが俺の身体を貫いたのは彼らの音楽だった。

インターネット環境という、今では当たり前のツールだが凡そ2003、4年頃にそれは我が家に設備された。
当時中学生、それはもう魔法の箱と言っても過言ではないが、俺はあっという間にパソコン中毒になった。
元来の探求心を刺激され、いろいろなツールを駆使しイラストを見たり描いたり、ホームページを作ったり、ネトゲに泥のようにはまったり、自分の性欲の赴くままに検索してラジバンダリ、おもしろFlash動画にハマっていたりした。
今で言うYoutube的な面白さがある上、個人が作成したネタ的な動画からクオリティの高いアニメーション、そしてその中でも特にBUMP OF CHICKENのオリジナルMVのようなFlash動画をきっかけに音楽系にハマるようになった。

そんな中、当時はまだ珍しかったが何らかの動画サイトへのリンクでTHE BACK HORNの「奇跡」のミュージックビデオに出会った。
この曲は「ZOO」という映画の主題歌で、この映像にも映画のシーンが使われているのだが、まあまあ残酷的な表現も相まって「ザ・中二病(SIMPLE2000シリーズ)」だった俺はこの作品どちらにも興味を持った。

音楽に対する関心はもともと少しはあったと思う。
親のカセットテープを流したり、従姉弟のネネがテープを焼いてくれて、それをオカンの車で流していたのをよく聴いていた。
それが先の様に関心が増えていったこともあり、俺は自分でいつでも聞ける環境を整えたくなった。
いつまでも動画サイトから聴くのでは時間もかかるし、何よりBUMP OF CHICKENはたくさん曲があったのに対し、THE BACK HORNはこの1曲しか知らない。
他にどんなことを歌っているのか、気になっていた。

それからある時、オカンの買い物の手伝いついでにTSUTAYAに寄った。
このTSUTAYA、今後ずっと出てくるがこの田舎町にとって娯楽と言える施設が殆どない為、家で映画鑑賞したり、俺の様に音楽を聞いたり、また、BOOKOFFが併設されていた為ゲームを買いにやってくるキッズ達にも重宝されていた。

俺のお小遣いは月5000円。レンタルはそこそこ大きな出費だったが、俺は初めてCDレンタルをした。
5枚で1000円になるオトクシステム(※1)があるらしい。なら気になっているアーティストをまとめて借りてしまおうと思い、俺は兎角BUMP OF CHICKENをいつでも聞けるようにしたかったので、とりあえずそこから3枚と、THE BACK HORNを2枚借りた。(※2)

(※1もうずいぶん昔のことなので内容ははっきりと覚えてないが5枚1000円でレンタルできたはず。)

(※2恐らく、BUMP OF CHICKEN「ユグドラシル」「jupiter」「THE LIVING DEAD」とTHE BACK HORN「ヘッドフォンチルドレン」「人間プログラム」)

オカンの車はCDプレーヤーが付いていないので、帰宅するまで曲は聴けないがその分家に帰ってからの楽しみ感は頗る高かった。
レンタルには期限もあるし、インポートを先に済ませてから再生をした。

BUMP OF CHICKENは期待通り、というよりようやく手元で聞けるようになった安心でじっくり聴くのは後にした。
それよりTHE BACK HORNである。俺は「奇跡」しか知らないし、他にどんな曲があるんだろうと高揚していた。
どうせなら、「奇跡」が入っている「ヘッドフォンチルドレン」ではなくて何も知らない「人間プログラム」から聴こう。

イントロのギターが流れる。
クランチ気味のリフにドラムが入ってきた瞬間、ギターが豹変したようにその音は激しい重みを増した。
俺は痺れた。ギターがカッコいいと思ったのはこの瞬間が初めてだった。理由はわからないが、最初から歪んでいたりしたら印象はまた違っていたかもしれない。

そして歌が入ってきた。
「天国に空席はない 鳥獣戯画の宴は続く」
「人類が平等だとか 愛してるとか」
「やらせろよあばずれ」
今まで、音楽を聴いてきた中でこんなことって歌っていいのか?何だかドキドキが止まらなかった。
世の中に溢れていた違和感とか欲望とか明け透けなく歌われているようだった。
サビに向かうと、歌までもが牙を剥いた。
力強い歌声は叫びに変わっていて、俺の脳みそを強く刺激していた。

新たな好きが生まれる瞬間だった。
それまで聞いてきた音楽のことは、いい歌だなとは思えど、俺は決して共感なんてしていなかったんだと思った。
BUMP OF CHICKENは物語を読むようで美しくて好きだったが、それとは違う、もっと攻撃性の高い、もっと自分の気持ちに近い言葉が鼓膜から脳へ、脳から体へと流れていた。

衝撃はそれ以降も続いた。歌詞はもちろんだが何より音色が暗いというのもこの時初めて感じたことだった。
今まで聞いたことないギターの音色がたくさんあった。サイレンのような演出や、ギターのハウリングも含めて、全てが新体験だった。



このアルバムをきっかけにこの人たちが鬱ロックと呼ばれていたりなど、そういうジャンルを知りより深くハマっていくことになった。

THE BACK HORNについて言えば、気が付けばすべての曲を網羅しようと躍起になり、インディーズから当時に新譜、B面の楽曲までなるべく満遍なく聴くようになった。
こういう探求心も彼らの音楽を聴きたいが為に育まれたものだが、後々他のアーティストに出会う際も発揮していく為、こういう性格なのだと自覚するきっかけになった。

その出会いから数年、俺が人生で初めて行ったライブもTHE BACK HORNだった。

後輩のケンちゃんは眼鏡をかけた小太りの男の子で、俺が薦める前から少し聴いたことがあるということで、全力で布教し、半分くらい強引に連れていったと思う。
(一人じゃライブハウスは心細かったので)

それから色んな場面でTHE BACK HORNは共に流れていたし、高校生の時分ではわからなかった曲の良さも時と共に良く感じるようになる…なんて事も含め、成長と共に彼らの音楽があった。

俺は音楽に救われた。と、までは思ったことはないのだが、少なくとも学生時代、友達が少なく、うまく回りに溶け込めないまま、生きるのが辛かったり、躓いたりムカついたりしたことに対して彼らの音楽は支えだった。

暗いことや辛いことを言葉にしていいんだ。
発信していいんだ。歌っていいのだ。
死にたいとか殺したいって気持ちは言ってしまったらよくないと、心に抱えていたものだって、独りでも強くあれる為のなり様がそこにあった。
そういう強さを貰えたし、そんなこんなで音楽に興味を持ったことから結果的に友達や何やら出会いがあったし、外へ向かうことが出来るようになった。

自分が何か変わるきっかけに音楽はあって、THE BACK HORNは特にその一つであることは間違いなかった。

気が付けば年齢も重ねてその当時のような気持ちはもう、近いものではなくなってしまったけれど、ずっと大切な記憶として残っている。


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