見出し画像

俺とSyrup16g

初めて聴いたのは「負け犬」だった。

正直なんでこの曲を選んだのかはわからない。天才とか翌日とかもっと聴きやすい曲が色々あるのに。

この曲が悪いわけではないのだけど、初めて聴くにはかなり重たい曲で、高校生当時はそんなわけであんまり好きになれなかった。

ただ、こういう抑揚のない、ただひたすら暗い楽曲というのをこれで初めて知ったこともそうだけど、良くも悪くも印象には凄く残った。

MVも不気味だったし。

テンションをぶち上げるわけでもなく淡々と進行していく閉塞感が、それまで聴いてきた感情を吐露し訴えかけるような音楽とは違い、とことん内側に向いている。

歌詞もメロディも重く沈んでいくようで、なんだかそれが凄く引っかかって残っていた。

だからなのか、他の楽曲を好きになったからなのか、徐々にこの曲に対する印象も不気味や怖いだけではなく、少し温もりみたいなものも感じるようになった。

知ったきっかけはともかく、他の曲を聴いて「天才」なんかはすぐカッコい!と好きになる。
若さゆえにこういうアッパーなチューンが好きだったこともあるが、むしろ最初はこういう曲しか好きじゃなかった。

後にSyrup16gの真骨頂はむしろミドルテンポの曲だと思うけど、俺はアルバムを流した時のイントロで「あ、こういうの気分じゃないから」と言った感じでやや遅い曲は飛ばして聴いていた。よくない。

でも割とそう思ったタイミングが早かったのか、ある程度ノリのいい曲が耳に馴染んできた頃に「そろそろちゃんと聴くか…♠」とアルバムを再生する。

もうどういう順で聴いたかは失念してしまっている為省くが、俺は「coup d'Etat」「HELL-SEE」を聴いた時に初めてちゃんとSyrup16gが好きだと感じた。

「そんなんねえ言われたって手首切る気になれないなあ」
「どこで曲がったらよかった?どこで間違えた?教えてよ」
「塾から帰る子供ガキのデカい態度に殺意すら覚え」
「予定調和に愛を 破壊に罰を 誹謗中傷に愛を」
「愛されたいだけ 汚れた人間です」
「普通の会話があんまり成立しない 自分だけの世界場所に入ると戻ってこない」

挙げたらキリがないけど、パンチの利いた、時々利きすぎるくらいの歌詞世界が今まで触れたものの何よりもぶっこんで来る。
言語センスというか、こういう生々しい部分と相反するように言葉遊びやふざけた要素を混ぜ込むところも面白かった。
言葉遊びでふざけても性質が暗いため、何か明るいようでとても暗いと言ったこの甘い中毒性にどんどんやられていった。

聴き始めたのはおそらく2007年。
その時Syrup16gのリリースはほぼ止まっていて、だいたいリリースされている音源は聴いていたころにその発表は突然訪れた。
セルフタイトルを冠したアルバムのリリースと、解散の発表。

俺が好きになったバンドの初の解散体験である。
俺はSyrup16gを生で観る事ができないまま、バンドは終わってしまうのかと、何だか凄い居た堪れない気持ちになった。

その為かラストアルバムはそれまでのアルバムより噛みしめて聴いた。
それまでの楽曲に比べるとキラキラと綺麗な雰囲気をまとっていて、思ったより軽いサウンドに諦めに似た相変わらずの暗めな歌詞が乗っかる。

まあサウンドの理由は後程知った情報で勝手に保管するのだけど、単純にバンドっぽくない、どちらかと言えばポップスっぽい仕上がりで、2008年頃ってちょっと他のバンドも明るいテンションの曲が増えていたのでそういうタームだったのかもしれないけど、何だか置いてけぼりにされているよう感じていた。

ちなみに解散ライブの日は卒業式だったと思う。
俺の代じゃないけど、なんだか気持ちが落ち着かなかったのは覚えている。
それも併せて少しヘンな気持ちだった。
別段好きな先輩がいたとかそういうことはないのだけど、なんとなく「終わり」を感じていたように思う。

その後Syrup16gのラストライブDVDも買った。高校生にしては大きい出費なので迷ったけど。もう見れないのなら、という思いで購入した。
ひとことで言えばライブDVD滅茶苦茶よかった。

ずっと盛り上がるとは逆の空気感だったけど、少しだけ緊張が抜ける「負け犬」のイントロのシーンで、きゅっとなる。
ドキュメンタリーは何か辛くて見れなかった。

それから暫くして、「犬が吠える」のニュースが上がる。
ソロプロジェクトかあ。なんて思っている合間に解散。音源出る前だよ!?

何だかもう聴けることはないなと半ば諦め、俺はある時動画サイトにライブ音源が上がっているのを見つけた。
その頃よく密録音源(ダメなんだけどね)が上がっていて、いわゆる未発表音源が沢山あることを知る。
俺は音源にならなかった曲たちを聴いて愕然とする。
Syrup16gのラストとしてこれ出せなかったのか?という気持ちでいっぱいだった。
(当時の状況やら何やらを考えたら出来ないこともわかる。バンド感が強い楽曲は多分録れなかったし、録れたとしてもイメージと違うとかあるんだろう)
アルバム2、3枚分くらいあるのだろうか。「delaydead」以降にもしアルバムが作れていた世界線があったらそれを見てみたい気がする。

兎角、俺はその中で通称924新曲という、タイトルすらつけられていない(あるのかもしれないけど公表されていない)楽曲を知る。
まさに耽美的とも言える沈んでいくような、水中のようなキラキラがあって、この曲を聴いた時鳥肌が立った。

それから数年。俺は東京の知らないバンドマンと知ってる友人とで生還ライブのDVDを観た。
五十嵐氏がギターソロを弾くときに皆「頑張れ!」と言っていたのが面白かった。
その後の活動再開は嬉しかったけれど、Syrup16gはあの時置いて去っていたような感覚をずっと残したままで、その気持ちは俺も知らないうちにどこかで枯れてしまったようだった。

「突き抜ける胸を裂くこの想いを誰に伝えましょうか」

もう昔ほどの熱量は持てないが、俺は未だに924の音源化を待ち望んでいる。

(それはそうと、新譜楽しみですね)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?