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俺とBase Ball Bear

数か月もすれば教室にはいろんな派閥が出来てくる。
それなりに音楽を聴いていることを知られると、会話の中で「どういうのが好きなの?」という言葉が出る。
素直にTHE BACK HORNと言っていると、何それ知らんわと言った顔で「そうなんだ」と返されて終わる。

そんなやりとりを経て学んだ俺は、次第に聞かれたらBUMP OF CHICKENとか聴いてるといった回答をしていた。
そうすると大抵「俺もバンプ聴いてるよ!何好き?」と言った会話が続くようになり、なんとかクラスで相当な腫れ物にならずに済んだ。

そんな中、友人のヨコくんと出会った。ヨコくんというのは仇名である。
本名を勝手に乗せるのは悪いよな、と言った俺の配慮である。また、当時mixi(又はモバゲー)にて、彼とのやりとりを載せる時はこの名前を使っていた。
彼はもともとクラスでも分け隔てなく仲良くするタイプで、俺は有象無象の一人に過ぎなかったと思うのだけど、いつからか好きな音楽の話でだけは盛り上がることが出来るようになった。
彼が他の人と話すゲームの話はあまりついていけなかったのだが、それでも友達で居てくれたことはあの時有難かったように思う。

ある程度仲を深めていくと、好きな曲や系統が近いようだった。彼は俺が薦めたものはだいたい聞いてくれて「これが良かった!」と言ってくれるもんだから、こちらも薦めがいがある、と思い、いろんな音楽を探してはお薦めしていた。

後でこのジャンルがロキノン系という言葉で括られるのを知るが、特に2000年代後半に台頭していくバンドを中心として紹介していく中にBase Ball Bearがあった。
俺が知ったきっかけは、動画サイトにあった個々人が作ったプレイリスト(のようなもの)だ。2007~2008年のことだった。

学校帰りに彼の家に遊びに行った。
まあ田舎なのでやる事なんてゲームか漫画か…その時は何をしたかはもう定かではないが、彼とは他に共通のゲーム実況を見るのが好きだったので、ニコニコ動画でも見ていたかもしれない。そういえばゲーム実況やろうぜなんて話をしたこともあった気がする。
話が逸れたが、そんな会話の中ふと俺が思い出したように彼に言った。
「そういえばこの前、結構いい感じのバンド聴いてさ」
「ふぅん、どういうの?」
俺は彼のパソコンの検索欄にBase Ball Bearと打ち込み、先日観たミュージックビデオの動画リンクを開く。

「えっ…ヤバい、すげー好きかも!」

彼が今まで見せたことないテンションと声色で言った。
震えあがっていたように思う。
後にそれは電気が奔ったようだと語っていた。
俺も、その感覚を知っている。

夏感満載のイントロ、これほど爽快感という言葉が似合うイントロも未だに類を見ないくらいキラキラしている。
俺はちょっとキラキラし過ぎていて、実はそこまでハマっていなかった。

でも何故か人がここまで好きになってくれると俺も嬉しくなってしまったり、またそれをきっかけで俺もちゃんと聴くようになった。

その日は週末だった。だから次に彼と会うのは月曜だったのだけど、彼は驚くようなスピードで俺よりも先にファンになっていた。
開口一番、「ベボベCD全部聴いたわ」と言ったとき俺は正直その熱量にびっくりした。
「マジ?ハマりすぎじゃない?」
なんて人の事全然言えないのだが、こういう機会があったことにより彼とはより親しくなった。

それから時が経ち、学生じゃなくなってからも仲良くしていた彼とはBase Ball Bearのライブに行く約束をした。

俺たちが住んでいた町は田舎故にアーティストのライブを見に行くのもなかなか一苦労で、地元で唯一ツアーで来ることの多いclubFREEZEも1時間かかるので中々学生時代は行きづらかったこともあり、ライブは非常に楽しみだった。
しかも会場は東京。ちょっとした小旅行気分で九段下駅に降り立ち、俺らは向かった。

俺はその時初めて、ロックバンドというモノを体感したように思う。

その頃のBase Ball Bearと言えば、本当に上り調子で、どちらかと言えばメジャーデビューしてどんどんポップスに変わっていく…といった一抹の寂しさを感じていた。

だからだろうか、音源だと歌が前に出ているからそう感じていただけで、楽器の音が大きく聞こえるだけでも印象が違う。
想像以上に演奏の熱量が高いこと、やや叫んだ歌い方、セッション、MC、気が付けば全身で楽しんでいた。

話は逸れるが、陰キャ故にTHE BACK HORNのライブは激しくて正直体力的にしんどかった。初ライブがそれだったことでライブに対する耐性はかなりついたのである意味で有難かったのだが、そういう意味で言えば、Base Ball Bearは楽しめる余力を残しながら適度に疲れることができて、何というか、ちょうど良かった。

兎角、ただの歌モノバンドではないと自分の中に刻み込まれたライブであることは間違いなかった。

それから約4年間。ヨコ君とはBase Ball Bearを中心に色んなライブに足繁く参加した。その間に20代前半特有の恋の病に(お互い)かかったり、慰めあったり、人生相談したり…と青春を送っていたが、4年も経つと新しい音楽や色んな出会いもあり、俺は地元を離れた。

当然会う機会も減っていたが、それからは地元に帰るタイミングで会っていた。「C2」がリリースされた頃だったと思う。Base Ball Bearはツアー「二十九歳」を見に行ったきりで、俺はたぶんこの頃ほぼ音源を聴いていなかった。
「そういえば新譜、どうだった?」
「んーっ格好良かったよ、聴いてみる?」
ヨコ君の車でアルバム「C2」を流す。

イントロの手触りから、だいぶ毛色が違うのがわかるアルバム。
今思うとこのアルバムって少しどころではないくらい異色だよなと思う。
「なんかピンとこないなあ」
「あー…でもわかる」
そんな会話を最後に、このアルバムを改めて聴くのはそれから半年もたたない頃だった。

「ベボベ湯浅脱退」

これで俺は急いでヨコ君に連絡した。俺らはかなりショックを受けた。
あんなことを言っておきながら、ほとんど聞いてないなりにも、やっぱり思い入れのあるバンドで、しかもアイコニックな個性を放っていたギタリストの脱退。一言も喋らない故か、象徴的なギターリフが多い彼のギター。
もう聞けないということ、ダンス湯浅ももう見れないこと。ライブに行っとけばよかったよりも、俺らは「青春が終わった」と思った。

湯浅脱退前の作品、俺はちゃんと聴いてなかったので、それから改めて「C2」を聴いた。

端的に言えば、演奏力がかなり上がっていてそこだけ切り取るとちょっと音楽オタク向けなアルバム。
歌詞も歌と共に入ってくるというより、読んで理解するタイプの楽曲が多い(と感じる)し、今までになかったアプローチのため、このバンドが次のステージに進むのだといった決意表明みたいなものを感じ取れる。

とにかく俺の印象は聴けば聴くほど面白いアルバムで、気が付いたらすごく好きになっていた。と、同時に凄く悔しい思いも湧いてきた。
4人時代最後の方、もっとちゃんと聞いておけばよかったとか、後悔と呼べるほどの感情でもないけど、せめてC2の楽曲をステージでもう一度、この4人で見たかった…と強く思った。

「どうしよう」の歌詞の一節が凄く好き。
終わった気になっていたのに、こんな焦がれる気持ちにさせられたのが、この楽曲で言語化されていた。

「青春が終わって知った 青春は終わらないってこと」

この曲は恋の話だけれど、こういう気持ちもある種の恋と言えまいか。

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