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センキュー、ストレンジャー!

私は今、アダルトグッズ会社のデザイナーを生業としている。そういうとギョッとされる方も多い。私も最初に求人を見た時にはギョッとしたし、二度見した。笑

元々、ウィメンズアパレルの雑貨デザイナーとして、小さなブランドのバッグやポーチを企画していた。仕事は楽しかったが、勤務形態が異常だった。体調を崩したことをきっかけに退職し、数ヶ月が経った。

そんなタイミングでたまたま出会ったこの求人だったが、一生の内でこんなに面白く突飛な業界に身を置けることなんてそうそう無いだろうなと思い、今に至る。

転職期間は、よもやコロナの真っ只中。応募してはお祈りメールが届く日々が数ヶ月続き、落ち込んでいた折に、ふと学生時代の就職活動を思い出した。


数年前、私は就職活動で行き詰まった。
私のデザイナー人生の始まりは、小学生時代まで遡る。夏休みの自由研究で作ったうちわの絵を、お父さんにめちゃくちゃ褒められた。それが嬉しくて、以来「私はデザイナーになる!」と鼻息を荒立てるも、中学高校と美術の成績は大抵3。

泣かず飛ばずの成績にも関わらず、気持ちだけは折れることなく。かといって美大に行く勇気も無く、ヌルッと専門学校に入学した。

産学官連携授業が盛んな学校で、大勢の人の前に立って喋る貴重な経験を重ねた。忙しい授業に追われて、あっという間に月日は過ぎ、気付けば就職活動が始まっていた。

大手に決まった友人を横目に見て焦り、人の目に映る自分に首を絞められ、大人の無責任な期待にも応えられずに、それはそれは苦しい日々だった。私は負のループから抜け出せずに日々、くよくよしていたように思う。

"あきらめないでどんな時も君なら出来るんだどんな事も"
"君ならできない事だってできるんだ本当さウソじゃないよ"

ふいにイヤフォンから流れてきたこの言葉が、スーッと心臓に染み込んで、驚くほどに合点がいった。その瞬間に、私は人と比べることに意味がないと心から悟った。やっと周りの視線から抜け出し、就職活動に本腰を入れることが出来た。
就職活動はいつ決まるかではなく、どこに決まり、それに対して自分がどう思うかが重要だと心底感じた。

その勝負は最初から他人と私の勝ち負けではなく、私と私に対してどうなのかの1on1でしかなかったことにこのとき気が付いた。
その試合を見ていた全く知らない人は、私以上に私を応援してくれていた。



数ヶ月後、なんとか頂いた内定1つを握りしめ、私はデザイナーの卵となった。憧れの職業に就いたのも束の間、社会人1年目は電話の取り方や敬語の使い方という社会人としての能力も培わなければならなかった。当たり前だけどね。
デザインワークと平行して進むそれらをバランス良く吸収するなんて、不器用な私にはもちろん難しくて。
成長できているのかも不明瞭で、焦燥感に駆られる日々。朝、失敗する夢を見ては慌てて目覚める、それはそれは慌ただしい日々だった。

"速いスピードで動いているから動いていないように見えるかもしれないけど ああ"

ふいにカーステレオから流れてきたこの言葉にハッとした。新しいことに飛び込むと日々はまるで秒のように過ぎてゆく。その速度に押されて同じ場所から全く動けていない気がしていたけれど、遠く離れて見つめてみると、きっと驚くほどの距離を歩き始めていることにこのとき気が付いた。
3ヶ月前には出来なかった電話応対が出来る様になっていたし、半年前には訳が分からなかった資料が理解できるようになっている。大丈夫、私はちゃんと成長していた。
そんな様子を見ていた全く知らない人が、歌い飛ばして私を支えてくれていた。



数年後の現在。
私は新卒で入社した会社を巣立ち、冒頭のアダルトグッズ会社でアパレル雑貨のデザイナーとして奮闘している。

大真面目にアダルトワードが飛び交う会議に最初は大層に面食らった。ただ、性別に関係なく当たり前に性と正面から向き合う先輩の姿に、それはそれは刺激を受けるスパイシーな毎日。

友人たちも数年のキャリアを積み、久しぶりに集合しては居酒屋で盛り上がる昔話。とても楽しいけれど、何故か私は物足りない。誰かが発する「昔に戻りたーい」の声に、ほとほと悲しくなる夜がある。


“Forever young あの頃の君にあって
Forever young 今の君にないものなんてないさ”


ふいに口ずさんだこの言葉に涙が滲みる。昔の私の延長線上に今の私が居るならば、昔の私が持っていて今の私が持っていないものなど無いのだと教えてくれる。たまには過去を振り返って楽しむのも良いでしょう。ただ、時はずっと前にしか進まないから、それならいっそ未来にもっとワクワクしませんか。と私は思う。
力強くて優しいしゃがれた声で、全く知らない人が私の背中を押してくれていた。


泥沼にハマって動けなくなった日も、辛くてしんどくて全て辞めたいと思った夜も、毎回そこからすくい上げてくれる何かがある。

大好きな家族や、かけがえのない友人の言葉や存在と同じくらい、全く知らない人たちの生み出す音楽や、全く知らない人たちの紡ぐ言葉に救われる。

全く知らない、ものすごく遠い人たちが、ものすごい近くで味方でいてくれてる不思議。私は動けなくなったときにはいつも彼等の音楽にパワーを貰う。温度を持った言葉は、私たちを力強くしてくれる。ありがとう。全く知らない人たち!

引用
サンボマスター「できっこないをやらなくちゃ」
グリムスパンキー「リアル鬼ごっこ」
竹原ピストル「forever young」

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