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【エッセイ】 ドライブレコーダーに映る惨劇 その①

今、仕事をしていて一番シンドイのが、安全運転講習で見させられるドライブレコーダーです。
恐怖です。
キキーという急ブレーキから、ガチャーンというけたたましい金属音。
人の悲鳴や、飛び散る血痕。
映っている顔の表情は演技ではないです。
ホラー映画とかの比較にならないぐらい怖いです。
だってお化けとかゾンビとかこの世にいないじゃないですかぁ…。

モロの本物

を見されられるんですね。

目を背けると、講師の上司が怒るし。
PTSDになるから、もう見たくない、と言うと、
「まるで自分が事故を起こした気分にさせたくて、これをお前らに見せてんやろがい!」
と言い、瞬きもするなとまで言ってくる始末。
なので『時計仕掛けのオレンジ』のこれをやらされている気分になります。


「それじゃあ、次の案件」


でかいスクリーンには、トラックが山道を軽快に走っている。
カーステレオには『COMPLEX』の『BE MY BABY』が流れている。
ドライバーの人は機嫌がいいのか、フンフーン♪と鼻歌を歌っている。
彼は、このあと凄惨な事故を起こす事を、知る由もない。

山道をひた走るトラック。


別にスピードは普通で、荒くない運転。
僕はこの、何事も起こらい時間が凄くキライ。
『普通の日常が、ほんの一瞬の判断ミスでぇぇ!』
みたいな事を考えさせたいが為に、わざと前振りを長くしている。
あぁ…嫌だ…。
次の角を曲がったら…、
あの対向車線の乗用車が急にこっちに向かって、
みたいに、いつどのタイミングで事故が起こるのかヒヤヒヤさせられる。
お化けが出そうで出ない、みたいな。

ビィマイベィベ、ビィマイベィベ、ビィマイベィベ、…。

ドライバーの人が、まるで3人目のCOMPLEXのメンバーになったかのように歌い出した。
のちにこのヘッタクソな歌声を、たくさんの人たちに聞かれるとも知らないで……。
多分、このドライバーさんは、僕と同世代なんだろうなぁ……。


―例えば―
このドライバーはきちんと交通ルールを守ったので、何事もなく無事に目的地に着いたとさ。
みたいな平和な映像だったいいのに……。
とさえ思ってきた。
あまりに前振りが長いから。
知らないおっさんが、ビィマイベィベと気持ちよさそうに歌っているのを、ただただ見されられる10分間の映像。
そんな何事も起きない普通の人生が、どんだけハッピーなのかを、皆で分かり合おうじゃないかぁ! 
なぁ兄弟! 肩を組もうぜ!
そう突然に上司が言い出し、なんかの宗教っぽくなってくれたらな……。
そうしたら、凄惨な事故を見なくて済む。
さぁ、皆で唄おうぜ! と、50人位の大人が会議室で肩を組んで、
ビィマイベィベビィマイベィベ
と歌う講習。
うん……別に悪くない。
そう思っていた頃、山の茂みから、怪しい影が表れてきた。

続く。

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