【イベントレポート】ChatworkのEMが歩んできたキャリアとこれからのEM
こんにちは!Chatworkで採用広報をしている安田です。
今回は2023年6月14日に開催した『ChatworkのEMが歩んできたキャリアとこれからのEM』のイベントレポートをお届けします!
近年、企業でエンジニアリングマネージャー(以下、EM)を採用することは一般的になってきていますが、具体的にどのような職種であるかまで把握できている人は少ないのではないでしょうか?
今回のイベントではそんなEMという役職を紐解くため、Chatworkで実際にEMとして働くメンバーを呼び、いただいた質問に回答しながら、EMに至るまでのキャリアやEMとしての将来像についてお話しました!
メンバー紹介
ChatworkのEM体制とそれぞれの役割
澁谷:元々Chatworkではフロントエンド開発部、モバイルアプリケーション開発部、サーバーサイド開発部といった形で、各技術領域ごとにチームを組織していました。このような体制では、プロジェクトごとにその場限りのチームを作り、終わったら解散するといった開発スタイルが主流になります。
しかしこのやり方だとプロジェクトとしてのナレッジが蓄積されないので、失敗を繰り返してしまったり、チームとしての練度が上がりづらくなる、といったことが課題になっていました。
そこで職能ではなく、開発したいトピック単位でチームを編成する「Featureチーム体制」への移行を進めているところです。(図中央)
職能別のチームも残っているのですが、メインとしてはFeatureチームで開発をする体制になってきているので、たくさんチームを作る余地が出てきました。しかしマネージャーの数が少ないためチームが作れないというジレンマがありました。その問題を解決するため、Featureチーム体制では「ピープルマネジメント部」を組織して、外からマネジメントをする体制にしました。(図右)
ピープルマネジメント部と書いてある通り、EMの仕事は1on1の評価や採用、プロジェクトマネジメントなどのピープルマネジメント的な役割になります。それ以外のところはFeatureチームに閉じた形で、権限と責任を渡して、組織開発をしていく編成をしています。
この体制のメリット、デメリットはありますが、ピープルマネジメントの属人化を防ぐという点では高い効果を発揮しています。複数人で直接メンバーの評価に関わることで客観性が高まったり、マネージャーとメンバーとの間に相性問題が発生したとしても柔軟にカバーしやすかったりといった感じです。
詳しいことはこちらのブログ記事もあわせてご覧ください。
粕谷:この体制の面白いところは、3人でマネージャー業務をしているところです。それぞれに担当メンバーが割り当てられつつも、申請の代理承認ができたりするので、お互いが補い合うことができます。メンバーからしても3人のうち誰でも相談していい雰囲気があるので、3人でマネージャーという考え方でチームとして動くのは非常に面白いなと思っています。
門田:そうですね。月末月初休めるようになったのはでかいですね。
粕谷:月末の経費精算が何と楽なことか(笑)。
門田:粕谷さんが承認するの早いので負けるんですよね(笑)。
ChatworkのCTOやVPoE
ー巷でEM的なことをする役職はたくさんあると思うのですが、ChatworkにおいてCTOやVPoEの役割はどうなっていますか。
門田:あくまでChatworkの定義になるんですが、CTOの春日が執行役員レイヤーとして、テクノロジーについて会社内の全責任を負うというようなポジションになっています。要は何でもやるっていう感じです。
と言っても全部見切ることは難しい。そこで組織の運営や、組織戦略を立てて実行していく権限を移譲している存在が、VPoEだったり、我々EMという立場になります。
現在、ChatworkにVPoEというポジションはありません。この3人がチームでVPoEを担っている感じですね。
ただ戦略的な部分は計画する人と実行する人を分けて考える必要が出てくるので、ステークホルダーのような人材が必要になってくると思います。
その場合はVPoEをチームの中に設置する方針にしています。EM自体は究極のミドルマネージャーで、メンバーと接すると同時に、組織を改善、開発していくっていうのがメインミッションになるという感じですね。
ーChatworkにプロジェクトマネージャーやプロダクトマネージャーはいるのでしょうか。
粕谷:EMはピープルマネジメントに近い業務がメインなので、プロダクトマネージャーも別にいます。
粕谷:スクラムマスターがいるので、プロジェクトマネジメントみたいなことを考えることは少なくなってくるのかなと。
ただものによってはプロジェクト的に仕事をしないといけないものもあります。そういう場合、プロジェクトマネージャーを置く場合もあります。
ーFeatureチームを編成する場合、マネジメントラインは職能ごとにしてマトリクス型にするという選択肢もあると思うのですが、マネジメントラインを分けた一番大きな理由は何ですか。
澁谷:スクラム開発において、評価者を外に出すことが一つのポイントだと思うのですが、どうでしょうか。
粕谷:おっしゃる通り、ゆくゆく課題になってくるだろうなって感覚があります。例えば僕はどちらかというとバックエンド出身なので、バックエンドエンジニアの評価はできます。でもモバイルエンジニアを正しく技術的に評価するのは難しいところです。なので形の上ではマトリクス型の組織になっていませんが、モバイルに詳しい人の意見をもらうこともあります。今のところはエンジニアの素養がある人たちがEMになることによって、何とかなっていますが、ゆくゆくは職能のラインでの評価も考えないといけないかなと思います。
門田:技術的な部分は対応しづらい部分ですね。そこに対しては有識者の手を借りる形で設計するのがベターかなと思います。ただその有識者がまたマネジメントをしなきゃいけない状態は避けたいので、最初の手助けだけで済むようなモデルを考えたいですね。
ーVPoEがいないという話でしたがEMの上司は経営陣になるのでしょうか?
門田:一応このピープルマネジメント部のマネージャーは僕がやってます。一番最初にやり始めたのが僕だからそのままやってる感じなので、そんなに意識されていないと思います(笑)。
澁谷:マネジメント観点ではできるだけフラットに振る舞うように意識しています。
門田:質問への回答としては、EMの上司は、ピープルマネジメント部の中に置いていて、僕の上司はプロダクトの開発組織の本部長という感じですね。
粕谷:僕らも一応門田が上司という建付けにはなっていますが、本部長とは日常的にコミュニケーションを取っているので、期待値調整とか、フィードバックはその本部長からいただくことも多いです。
門田:そうですね。EMの評価は僕が本部長とすり合わせているので。
EMとして心がけていること
ーメンバーに「成長」の「実感」を得てもらう必要性と、必要性がある場合にやっている施策、動き、対話の工夫などあれば聞きたいです。
粕谷:メンバーの成長実感で言うと、評価的な話がわかりやすいと思います。丁寧にコミュニケーションを取って、成長や目標に対する納得感を持ってもらうことを重視しています。
門田:他のメンバーからの評価を伝えてあげることも大切にしています。純粋に嬉しいし、成長が実感できる部分だと思うので。評価だけじゃなくて、成長を実感してもらうための手段として重要視しています。
澁谷:メンバーの声をフィードバックすることはすごく大事ですよね。
我々には様々な情報が集まってくるので、情報を多角的に見て、きちんと個人と話していくところが一つのポイントになっています。
ー普段の取り組みで心がけてることや、エンジニア組織の課題をどのように捉えて、成果を経営層と握って進めているんでしょうか。
門田:エンジニア組織の課題は、メンバーから上げてもらうか、自分でキャッチするかなので、一次情報で捉えることが多いかなと思います。
粕谷:エンジニア組織の課題は多岐に渡るので、現場のメンバーが感じている課題もあれば、経営層の開発組織に対する期待感とのギャップみたいな課題もあるかと思います。何でも多角的にアンテナを張る必要はあるんですが、一次情報を丁寧に拾うということは変わりません。
門田:本部長とは日常的に次のアクションやスプリント内容などを共有して、レポーティングや優先度の調整を細かくやっています。経営層に対しては3ヶ月に1回ぐらい進捗を共有する機会があるので、その場で細かい話をすることが多いですね。
澁谷:コミュニケーションを大事にするのが、僕たちがよく意識してるところですね。
ーEM間でのコミュニケーションをどのようにとっていますか。
澁谷:結論から言うと毎日話してますね。
門田:朝会から始まり、形式ばったミーティングもあるし、その場で時間を取って話すみたいなこともありますし、主力はチャットですよね。
粕谷:うん、そうですね。僕はアジャイルコーチ的な役割もしているので、なるべくアジャイルとかスクラムのように仕事をしたいという気持ちもあります。なのでスクラムを模した感じでイベントを置いてます。
澁谷:もちろん人それぞれの価値観に基づいた判断であっていいと思いますが、共通認識を持てている自負があります。
粕谷:進捗共有しておくと突然休んでも誰かが巻き取れたりしてメリットが大きいので毎日話したいですね。
ー組織が大きくなればなるほどEMの人数が必要となりそうですが、市場にはEMが少ないと感じています。社内のエンジニアに対してマネジメントへのネガティブなイメージを払拭したり、育成計画を立てる必要もあると思うのですが、この課題についてどのようにアプローチしていますか。
門田:そもそもピープルマネジメント体制というのが、EMが少ない前提で開発をしましょうという考え方に基づいてやっています。
確かに組織規模が大きくなってくるとEMの数が足りなくなる問題はありますが、今は経験者を採用することを第1ステップとして考えています。将来的にピープルマネジメント体制が社内外に浸透して、キャリアとして認識してもらえる状態になれば、社内から素養がある人を見つけることも考えています。
粕谷:チームで動いているメリットは、EMの動きが理解しやすくなることですね。今日のイベントもまさにそうです。EMはしんどいと思われてしまうと誰もやりたがらない。なので我々が楽しそうに仕事をしてるところを見てもらうことは大事だと思っています。
澁谷:マネージャーは孤独だとよく言われますが、孤独じゃなくてもマネジメントできるようにしていきたいです。
あと実際問題1人でマネジメントできる人数には限界があるという問題もありますね。今だと、1人当たり10人から15人ぐらいできてますよね。
門田:そんなもんですね。
澁谷:1チーム当たり最大7人と考えたときに、2チームくらいのイメージですね。なのでピープルマネジメント体制として3人でやっているから、1人の限界を超えたマネジメントができてるのかなという感じです。
これからのEM
澁谷:先ほどから何回も出てきているマネージャーを進んでやりたい人はいない、声をかけられてやる、EMは市場に少ない、みたいな話はあるとは思うんですけど、昔に比べるとマネジメントに対して言及する書籍や、マネジメントについて発信したりする方もすごく増えたと感じています。
マネージャーに専門性が求められてきている印象があるんですが、どうでしょうか。
粕谷:一昔前はマネージャーは給料を上げる数少ない手段の一つで、給料を上げたければ、マネージャーになるのがお決まりルートでした。しかしエンジニアとしてどんどん給料が上がっていく例も増えてきたので、必ずしもキャリアの行き着く先=マネージャーではなくなってきているんですよね。そんな中どうやってマネージャーをやりたい人を増やしていこうかというところに課題感があります。
自分の場合は面白いと思ってやれてるんですけどね。
門田:日本でVPoEっていうワードが登場したのが、6年ぐらい前とかですね。メルカリさんがCTO体制からCTOとVPoE体制に変えたみたいなところから、組織や人に特化する存在がフォーカスされるようになって、そこからちょっとずつ変わってきているのかなという気はします。
やっぱりエンジニアリングとピープルマネジメントって全然別のスキルかなと思っています。1on1ってされる側だったときは何も考えずやってたと思うんですけど、やる側になったら難しいな、みたいな。
何を話せばいいかそもそもわからないから雑談して終わり、みたいになっちゃってたりするので、意図を持って設計して、施策を回すみたいな考え方はエンジニアリングとはまた別のスキルだなと思ったりします。
澁谷:その中でも1on1って究極的なカウンセリングのテクニックが要りますね。別スキルかつ専門性の高いものだと思います。
粕谷:僕はエンジニアとして日々新しい技術に触れて、学んでいくのが楽しいと考えていました。でもマネージャーになっても毎日勉強する必要があるし、新しい発見があって、時代が経るごとにマネジメントスキルが見直されていくので、どんどん新しい考え方が入ってきます。
学び続けるとか、勉強して自分のスキルを磨いていくっていう意味では、エンジニアと変わらず面白い仕事だなと思っています。
澁谷:組織課題って問題行動に気づけないと、なかなか効果的に解決できないとこもあったりするので、そういう意味ではある種エンジニアで培ってきた素養が生きてくるのかなっていう気もします。
粕谷:システム思考とかを勉強してて、このコミュニケーションを阻害している構造は何だろうとか、因果ループ図を書いたりしていると、結局ソフトウェアのモデリングをやってるのと頭の使い方が同じこともあるんです。論理で攻めていかないと納得してもらえない場合もあるので、エンジニアのスキルや経験が生かされる場面もあって面白いですね。
澁谷:そうですね。技術的なところを全く知らなくてもいいかっていうとそうではなくて、一緒に話をしているのはエンジニアなので、エンジニアとしての経験が活かされているところもあるのかなと思います。
そして学び続けることでリスペクトを示すのも一定必要なのかなと思っています。そういう意味で自分で技術的なところも含めて学ぶ機会は結構あります。学び続けることの面白さがマネジメントにはあると思うので、興味ある方がいればぜひチャレンジしてみていただきたいなと思います。
ーマネジメントスキルを磨くために参考にしている書籍、ブログ、SNSなどがあれば教えてください。
門田:澁谷さんとかはよくEMのチャットで共有してくれますよね。
澁谷:マネジメントの導入として、プロダクトマネージャーやビジネスの方にもおすすめしていることが多いのは……ど忘れしちゃった(笑)。
粕谷:『エンジニアリング組織論への招待』(笑)。
澁谷:めちゃくちゃ紹介してるのに申し訳ない(笑)。
粕谷:著者が広木大地さんっていう方なんですけど、ブログのエントリーが面白くて、マネジメントに関するいろんな事例を紹介してくれています。
澁谷:僕も折に触れて広木さんの記事を参考にしてます。本当に最初の一歩という感じで言語化されてまとまっている良質な記事が多いなと思っています。
門田:僕は話術の本を読むようにしてます。コールドリーディングとかホットリーディングと呼ばれる手法に関するものですね。面接や面談のときに使えるんです。占い師が相手のことを読んで話すためのテクニックで、セールスとかでも日常的に使われてる手法ですね。1on1のネタバレになっちゃうな(笑)。
粕谷:門田さんと1on1すると今コールドリーディング使ったなってなっちゃう(笑)。
僕はアジャイルコーチ的な側面もあるので、スクラムとかアジャイルに関する書籍を読むことが多いです。でもジャンルを絞らずに、勉強する方がいいなと思っています。一時期アジャイル界隈で教育者向けの本の『教育心理学概論』という本が話題になったことがあって、チームメンバーがどのようにして学習していくかとかモブプロの効能みたいなところにまで思いが及ぶような内容でした。いろんなことを摂取すると参考になるなと思うことが最近は多いですね。
澁谷:確かにジャンルを絞らないのはいいと思います。私は子供がいて、その関係で先日『子育てコーチングの教科書』という本を読んだんですが、1on1とかその人と向き合う姿勢みたいなところにも生きるエピソードがあって発見が多かったです。エンジニアや技術から外れたところの書籍も手に取ってみると意外な発見はありそうです。
ーEMチームとしてどこまでの情報を開示し、どの情報は秘匿していますか。先ほどEMとして孤独ではなく楽しい姿を見せるという一環で、普段の活動をパブリックに見せるという話もありましたが…。
門田:マネジメントしているメンバーの情報開示については、基本的にピープルマネジメント部内のみです。ただ粕谷さんとの1on1の情報は澁谷さんには話さないです。
秘匿していることはそこまでないかもしれないですね。一般的なマネージャーがメンバーに対して接するのと同じ感じです。EMチームの内側ではある程度共有しますが、外に向けてプライベートの話とかは当然しません。
門田:1on1はピープルマネジメント部で共有することを前提にしているので、どうしても話したくない内容があれば言ってもらう感じかなと思います。
澁谷:そこも含めた共通認識がメンバー間で取れているので、本当にセンシティブな話とかはそれぞれの胸のうちに止めつつ、必要な情報を共有してるっていう感じなのかなと思います。
門田:通常のマネージャーだと内に秘める場合は孤独に戦う必要がありますが、チームだとみんなでどうにかできるので、秘匿情報を秘匿情報のまま動きやすいんですよね。
澁谷:相談しやすさがありますね。
終わりに
いかがでしたでしょうか?今後もイベントを開催していきますので、ご参加いただけると嬉しいです。
ChatworkではEMを募集しています。その他にもエンジニア関連職種の募集を行っていますので、ご興味ある方は是非ご応募ください。キャリア登録もお気軽にどうぞ!