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脳の怖い話「真実の口」

※もし良かったら、下記の音声を再生しながら、文章を楽しんでください。


高木「やっと、完成したよ、中村」


高木が部屋の隅に設置された奇妙な装置を指差した。それは金属とガラスで出来ており、どことなくイタリアの有名なモニュメント「真実の口」を思わせた。

中村「だから何だっていうんだ?」

相棒の中村が首を傾げた。

高木「その穴に手を入れてみて。」

高木は微笑んだ。中村が戸惑いながら装置に手を差し入れると、本人には分からないくらいの微弱な電流が脳に流れ、視界には、ぼんやり何かが写り、背中を軽く押されるような感覚に襲われた。

中村「なんだ、これは?」

高木「あのな、中村。突然の提案なんだけど、視界がボンヤリするのと、背中を押されるような感覚を守護霊と思わせるんだ。『あなたの守護霊が、あなたの悩みを解決します!』というキャッチフレーズで占い師を始めないか。」

中村「はぁ、唐突だな」

高木「中村、お金欲しくないのか?欲しいんだったら俺について来い。俺が占い師をするから、お前は集客をしてくれ。」


中村は、半信半疑で協力した。半信半疑とは裏腹に、高木が考えた占いは、瞬く間に評判となったのだ。

高木の占いは、こんな感じだった。まずは、占いに来た人に、高木が作った装置の穴に手を入れてもらう。そして、視界がボンヤリとなり、背中を押されるような感覚あったら、すかさず、高木は、こう言う。

高木「それは、あなたの守護霊ですよ。その守護霊に、あなたの悩みを『YES』か『NO』で答えられる質問をして下さい」

例えば、相談者が「私は、今の会社を辞めるべきでしょうか?」と聞くとする。高木が『YES』と思えば、脳に電流を流し背中を押されるような感覚を味わってもらう。

逆に高木が『NO』と思えば電流を流さず、背中は押されないようにしたのだった。

人は不思議なもので、それだけで悩みを解決してしまう人が、ほとんどだった。なので、高木と中村は、かなりの富豪になったのだ。

中村「マジか、俺らが大金持ち!信じられないよ」

しかし、事件は起こった。中村が、金庫にあったお金を全部持って、どこかに逃げてしまったのだ。テーブルには、置き手紙があり、中村の字で、こう書いてあった。

中村「すまん、高木。ホントにスマン。」

高木は何も考えられず、街をフラフラし始めた。そして、不思議な現象が起きる。高木は装置に手を入れてないのに、背中を押されるようになったのだ。

背中を押され、交通量の激しい道に3度も出てしまう。1度目と2度目は「危ねえよ、馬鹿野郎」と車の運転手が言っただけで済んだが、3度目は違い、交通事故で病院に搬送された。

足が骨折したため、病院のベッドで白い天井を見つめるだけの生活を送った。高木は、心の中で思う。

高木「きっと、罰が当たったんだ」

数ヶ月が経ち、高木は、やっと家へ戻れた。何気なく郵便受けを見ると、大量のポスティングのチラシと、一通の白い手紙があった。その手紙を読んでみた。

「高木先生。あなたが開発してくれた装置のおかげで、私は自分の守護霊と繋がることが出来ました。そして、無事に転職に成功しました。ありがとうございます。高木先生が早く退院して、また、占ってもらいたいです。」

高木は手紙を読み、憤りのない感情になったのだ。そして、家へ帰る途中で買ったシュークリームを握り潰し、壁へ投げた。壁に投げられたグチョグチョになったシュークリームを拾い、泣きじゃくりながら食べた。

高木「すみません、すみません」

何度も言いながら、今度は真っ当なことで、再起を誓う高木が、そこにはいた。


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