見出し画像

僕らがゲットしたものは。(ポケモンメザスタ)

先日、大阪のポケモンセンターで、ムスメと『ポケモンメザスタ』をプレイしていた。『ポケモンメザスタ』とは、ゲームセンターやデパートに設置されているポケモンのアーケード筐体。ボタンを連打してポケモンバトルに勝利し、捕まえるとそのポケモンの「タグ」が手に入る。そのタグを組み合わせてパーティーを組み、さらなる強敵に挑む……というゲームだ。

基本プレイは100円ながら、「いま100円を入れると捕まえられるぞ!」みたいなイベントが頻繁に発生。時間制限もあるし、レアなポケモンを目の前にしたら、投入しないわけにいかない。こうして親の財布がどんどん軽くなっているというわけである。ううう。

『ポケモンメザスタ』公式サイト

その日も、いつもどおりプレイを進めていたのだけど……急に暗転し、隣の席の画面と合体。めちゃめちゃ強そうなネクロズマが出現したではないか! どうやら、ふたりでいっしょに挑む「スペシャルタッグバトル」が発生したらしい。めったに発生しないけど、強力なポケモンが出現するようだ。

隣の青年は海外の方のようで、にわかに仲間と作戦会議をしている。相当レアなイベントなのだな。だったらこっちも貢献したいけど、手持ちの弱いポケモンで大丈夫だろうか。

そう逡巡していたら、「これを使うんだ!」とばかりにタグを渡された。こ、これは、ダークライにディアルガ、バンギラス! 見るからに強いポケモンたちだ。ネクロズマは現環境のトップレア。手持ちのプクリンやアシレーヌでは太刀打ちできないだろう。ムスメも、強いポケモンを使ってみたくてしょうがないみたいだ。ありがたくお借りしよう。時間の制限もあるし、言葉も通じない。でもだからこそ、お互いに最善の手を選ぶことができた。

強力なタグを借りているのに、隣には別のダークライやバンギラスがいた。相当なやり込みっぷりで、とても頼もしい。弱点を突きながらふたりでネクロズマを集中攻撃すると、あっさりと倒れた。よし!

しかし、まだまだわからない。捕まえられるかどうかはこれからだ。まずは、投げるボールをルーレットで決める。マスターボールやハイパーボールを引き当てたいけど、ムスメが当てたのはスーパーボール。ちょっと不安だけど、タッグバトルではより上位のボールが両者に適用される仕組みになっている。つまり、隣の頼もしき仲間にマスターボールを引き当ててもらえればいいのだ。

……目押しを狙っているのだろう。手を筐体のボタンにかぶせたまま、さっきから20秒ほど動かない。画面に目を近づけて、ものすごく集中している。これは期待できそうだ!

と思っていたら、「シャキン!」という音とともにモンスターボールで止まったものだから、みんなで吹き出してしまった。当人は両手を頭の裏に回し、しまった! とショックを受けている。きっと大丈夫、スーパーボールですから。そんなふうにジェスチャーと笑顔で伝える。いい笑顔が返ってくる。さあ、いよいよだ。

さっきまであんなに騒がしかったのに、一気に静寂が訪れる。いつの間にか、お客さんがたくさん集まってきていた。偶然近くにいた人と手を組んで、力を合わせて攻略する。それがこんなに楽しいなんて。みんな、筐体の画面をじっと見ている。ムスメも私も、隣の人たちも、みんなで祈るポーズをしている。

スーパーボールがネクロズマに当たり、ボールが1回、左右に揺れる。まだ大丈夫。そして2回目。また左右に揺れた。よし、あともう少し。そのまま3回目の揺れ。ムスメの横顔を見る。そんな真剣な表情をするようになったのか。そう思ったとき。

カチッ、という気持ちのいい音とともに、ボールの揺れが止まった。

隣から大きなおたけびが上がり、そのままの勢いで僕たちとハイタッチする。遠くでお客さんの拍手が聞こえる。ムスメと抱き合って喜んで、君のスーパーボールのおかげだね、と讃えあう。ああ、そうか。こういうときこそ叫ぶべきなのだろう、「ゲットだぜ!」と。

荷物を片づけた帰り際、隣の方が翻訳アプリの画面を見せてくれた。

「私は台湾人です。とても楽しかったです。ありがとうございました!」

胸がいっぱいになって、ちょっと泣きそうになったけれど、そのまま笑顔でさよならをした。たぶん、もう会うことはないのだろう。だけど、いっしょにゲームを楽しんだ記憶はずっと残る。言葉が通じなくても、わかりあうことができる。ゲームというエンターテイメントにはそういう力がある。

いまこそ永田さんの言葉を借りよう。"僕らがゲットしたのはネクロズマだけではなかった"。どうかそんな魅力が、少しでも君に伝わりますように。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?