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スポーツを通して、”ご機嫌”でいることの価値を伝えたい。スポーツドクター"辻󠄀 秀一さん”

「スポーツは文化だと言える日本づくり」「JAPANご機嫌プロジェクト」を掲げて、応用スポーツ心理学をベースに個人や組織のパフォーマンスの質を高めるメンタルトレーニングを専門としている、スポーツドクターの辻󠄀秀一さんにお話を伺ってきました。

辻󠄀 秀一さんプロフィール
出身地:東京都
活動地域:東京都を中心に全国で活動中。
経歴:1961年東京生まれ。 北海道大学医学部卒業後、慶應義塾大学で内科研修の後、慶大スポーツ医学研究センターでスポーツ医学を学ぶ。その後、応用スポーツ心理学をベースに、個人や組織のパフォーマンスの質を高めるメンタルトレーニングを専門とする。揺らがず・とらわれずの機嫌のいい自然体な心の状態“FLOW”を自らマネジメントするライフスキルという脳力を高め、するべきことを質高くするFLOW DO ITを推奨する。またスポーツは文化だという理念をスポーツ界、行政、教育界などに広くコンサルティングしている。著書には『スラムダンク勝利学』、『プレイライフ・プレイスポーツ』、『自分をご機嫌にする方法』、『リーダー1年目の教科書』など累計70万冊。
心がけ:
今ここ自分!

Q1. 辻󠄀さんの、夢やVisionを聴かせてください。

辻󠄀 秀一さん(以下、辻󠄀):実はあんまり夢を叶えるとか、夢に向かうとか、目標とかが好きじゃないです。目指すより内側から湧いてくるエネルギーで、行動して道が作られると思っているので、あまり目標設定して夢を叶えるというのは僕のフィロソフィーには合っていないイメージですね。外側に何かの行先を作ってそこに向かうというよりも、今、目の前のものを一生懸命楽しく生きるということを機嫌よくやっていく。そうすると自分の価値観に気づけていったり、志が見つかっていったりするから、内側にある想いのエネルギーや価値観とか志で方向をつくるような生き方をしています。僕の人生のテーマは、Quality of Lifeですので、死ぬまで心豊かに質よく人生を送って、生きていきたいと思っています。

記者:素晴らしいですね。自然体でそこまでエネルギーも思いも溢れて方向性を決められるってなかなか現代人できないですよ。

辻󠄀本当は自分の内側に、誰もが“自分は何を大事にしているのか”があるはずなんですけど、脳科学的に言うと、認知的にゴール設定してPDCAサイクル回して行動しなさいって教育をされているので、非認知的に、自身の、内側に目を向けるっていうのが欠けてるんですよね。でも、目を向けていないだけで、みんなあるんです。ただ、外側と比較しながら評価するという思考を形成していっている学校教育では苦手になります。

記者:たしかに、学校では夢とか目標に向かって頑張ることがよしとされてきましたね。

辻󠄀家庭の中でも、子どもに対して行動と外側にある結果しか会話しないことが多いと思います。「何を思ったの?何を感じたの?」を聞いていないんです。「そもそも何を大事にするの?」とか、「お母さんはこう感じたのよ。」っていう会話が少なすぎます。脳は外にばかり意識が向いて、外に解決策を求めてしまいます。そうすると、その指標って結果を出してるか出してないかだけになってしまうので、結果的に内側に目を向けることが難しくなるんです。

僕は、生きているだけで全ての人が表現者であり芸術家であり社会起業家でもあると思っています。大それたことをしなくても、どんな人も自分の表現をして誰かの役に立って生きているし、みんな自分という会社を経営しているんだから。もっと自分の内側に目を向けて、何をするか(Doing)よりも、どうありたいのか(Being)を考えて、表現していいんです。そこを見つめる習慣があれば、もっとみんな輝くと思います。

辻さんインタビュー

今のままでは、認知的な脳の最終形であるAIに、人間は負けてしまいます。だからこそ、内側にある目に見えないもの、感情、気配りやホスピタリティ、創造性、コミュニケーションの中で新しい解を導けることや、お互いの感情に気づき合いながら接していける力、つまり感情マネジメントが重要だと思います。

記者:外側ではなく内側に目を向けていくこと、忙しい現代は特に難しくなっているからこそ必要ですね。

Q2. そんな辻󠄀さんの日々の基本活動について教えていただけますでしょうか。

辻󠄀僕はスポーツが非認知的な脳を育み自分の内側を観ることにつながる、すごく大事な人間活動の一つだと思うんですよね。一方でスポーツは結果市場主義になっちゃうから、諸刃の剣です。だからこそ僕はスポーツは文化で人間を豊かにするためのものだって言ってます。そもそもスポーツっていうのは、脳のバランスをもって、機嫌よくやるべきことをやることや、どんな心で取り組むのかっていうことも含めた両方を整えることをしていかないと負けるんですよね。
「近代オリンピックの父」と呼ばれるクーベルタンさんは、オリンピックがなぜあるのかというところに対して、人が自分を磨く象徴として、心や体の健康というのをつくり、それが仲間とのチームワークや人と切磋琢磨していくことで磨かれると言っているんです。そして最終的に世界の平和のためにスポーツの祭典をやるんだって言ったんですね。にもかかわらず、今は商業主義になって、金メダルの数ばかり数えて、スポンサーのためのオリンピックになってしまっています。本来のあるべきオリンピックでありスポーツにならないといけないと思います。だから僕はスポーツは文化だっていう考えをもとに活動しています。
また、ホワイト企業大賞選考委員っていうのもやっているんですが、ブラックじゃなければいいということではなく、内側の心や在り方を大事にしながら、売り上げもあげている、その両方のバランスを整えている企業を探して表彰したりもしています。

記者:スポーツという切り口から、人間の本質的な課題に対しての解決をされていらっしゃるんですね。そこから派生して、組織や企業に対しての取り組みをされているのも素晴らしいですね。


Q3. そもそも非認知的な脳の重要性に気づくきっかけは何だったのですか?

辻󠄀きっかけは、大きく二つあって、一つは妻に言われた言葉です。僕が24歳で医学部を卒業し、30歳になって医者として一人前になったときのことです。当時の僕は、結婚して妻を幸せにするためには偉くならなければいけないと思っていました。僕の父は医者ですが、大学教授をやっていたので、「自分もお父さんみたいに偉くなって奥さんを幸せにしないと。」と思っていたんですね。医者は論文を書かないと偉くなれないので、忙しい中でもさらに論文を書きながら、生活のための医者のアルバイトも頑張ってましたから、妻が「偉くなる必要ないんじゃない?」と言ってきたんです。僕は、その言葉がすごく心に残っていて、「そうか、偉くなることじゃないのかな…。」と思いつつ、ある日当直で一晩中起きていた日の朝に、「昨日マジ夜中しょうもない患者来て最悪。」と文句言ってる自分がいて、そんな自分にすごく嫌だなって思ったんです。その時に、妻の言ったことを思い返しながら、「どうなんだろう?もっと自分を大切にしながら生きる生き方もあるんじゃないか?」って疑問が始まりました。

そしてちょうど同じ時に、二つ目のきっかけであり、僕の人生を変える一番強烈な出会いがありました。それがパッチアダムスの映画を観たことです。僕にはそれがめっちゃ刺さりました。テーマは、Quality of Life(以下、QOL)。人生の質っていうものがあると。今まで結果も出しながら生きてきましたけど、なんか物足りないと思っていて、それは結果を出すのも偉くなるのも、質じゃない世界だったからなんだなって思ったんです。
それでちょうどパッチアダムスが来日した時に、話を聴きに行ったんですね。そこで彼が、「質を決めているのは心だ。何をしているのかではなく、どんな心で生きているのかがその人のQOL。幸せを決めているのはその人の心だ。」と言ったんです。医者として病んだ心には触れていたけど、なんか自分はそこじゃないと思っていましたから、QOLと心なんて考えたこともありませんでした。だからこそ、QOLを高めるための勉強って、何をしたらいいんだろう?って思ったときに、スポーツは役に立つんじゃないかと思ったんです。そしてスポーツ心理学を学ぶ中で『スラムダンク』という漫画を使って、何かできるかもしれないと思いました。哲学書だし、生きることについて考えさせられる素晴らしい漫画だから、そこを使って考えていることをメッセージにしたらいいんじゃないかと思ったんです。
そこで作者の井上雄彦先生に、知り合いでもなかったのですが会ってくださいってメッセージを送りました。そしたら居酒屋で会っていただけることになって色々話したら、「ユニークなドクターですね。それだったら、先生、本を書いてみたらどうですか?」って言っていただいたんですね。
それで初めて書いたのが『スラムダンク勝利学』。結局40万冊も売れて、内科医を辞め、スポーツ医学で健康医学とかスポーツ選手のコンディションのことを、慶應のスポーツ医学研究センターというところで学んで、独立しました。

記者:些細な一言だったり、感じた衝撃というキッカケを逃さずに、行動した結果、今があるのですね。


Q4. どんな蓄積があったから心を大事にしようとするようになったのですか?

辻󠄀僕がそうだったのは、母の影響があると思いますね。母の家系は芸術家的な家系なんですけど、心を大事にするお母さんでした。機嫌よく生きろって言っていたり、100点取るよりもっと大事なことがあるでしょっていうようなことを言っていて。かつ、うちの母は子ども扱いしないで育ててくれました。私はこう思うけどあなたはどう?みたいな。だからなんとなく、僕がそうなったのは父も含めて両親の影響だとも思います。

記者:まさに非認知的な脳を自然と育ててくださるようなお母様だったのですね。

辻󠄀そうですね。ただ、みなさん、過去や両親は変えられないし、うちの両親はそんな両親じゃないからもう遅いのか?というとそうではなくて、人間は自分が成長しようと思うか!ですから、幼少期のことがどうであれ、いつからでも変わることができると思っています。

辻さんインタビュー2


Q5. 脳と心がキーワードなのかなと思うのですが、脳と心の関係についてはどのように考えていらっしゃるのですか?

辻󠄀脳と心があったら、心というのはただの状態で、機嫌がいいのか悪いのか、その感情の状態を表しているだけであって、それらは全部、脳がつくりだしているのだと知る必要がありますね
人間と動物との違いは何かと言ったら、認知的な脳です。これは脳の場所じゃなくて働きを指します。教育と進化によって、脳はコグニティブに発達して、認知したことにいろんな意味づけをしていくがために、感情が生まれます。でも自分が思った通りの外側はないので、人間の脳はネガティブな感情を常に生み出して、それを原動力にしてソリューションを出して問題解決をするというのを繰り返しています。その結果、今の文明の発達があります。
一方で、人間が生きる上でそれだけをやっていると、心の状態は必ず不機嫌な方に行きます。その認知的な脳によって生まれている社会や人が映画『ジョーカー』や『パラサイト』ですよね。認知的な脳で文明を発達させている一つの象徴だと思っています。現代は誰もがジョーカーになる可能性があります。ジョーカーを生み出す社会なんですよね。でもこの社会を作っているのは人間、人間を動かしているのは脳だから、その脳がネガティブな感情を生み出すことを原動力に、認知的に文明を発達させているだけでは、格差、貧困、病気、環境破壊などが起きて限界です。

記者:現代文明の限界を象徴する問題は、どんなものだと考えられますか?

辻󠄀AIの問題だったり、個別の問題が今の社会的な問題だと思っています。つまり脳のバランスが悪いわけです。だから、質とか自分とか感情とかを大事にするっていう、認知が苦手な脳を、すごく今求められているんですよね。そこを育む機会をどう持つのかっていうのが重要だと思っていて、僕は一番は家庭教育だと思ってます。家庭教育となると、お父さん、お母さんが主になると思いますが、じゃあ親はどこで学ぶの?っていうと、そんな場がないから問題ですよね。だから、こういった生涯学習というか、教育機関が色んなところでメッセージを発信していく必要があるし、そこで全員ではなくてもある人たちが気づきながら、そういうことに感度を高める生き方にシフトしていかないといけないですよね。

記者:非認知的な脳を育む場、そのことに意識を向ける人たちを増やしていくことが必要なんですね。

Q6. 最後に読者のみなさんへメッセージをお願いします。
辻󠄀:僕は僕の経験と僕の考えしか伝えられないけど、辻󠄀先生は良いですよねって他人事には思ってもらいたくないんです。みんな人に決められて文句を言うことに慣れているけど、自分で決めるっていうことが重要だと思います。みんな大丈夫で、みんな生まれていること自体に価値がある人だから。だから、自分を探す旅にインドに行かなくていい。自分の中にあるんだから。でも人は弱いから、「考えることも大事だけど、感じることも大事だよね。」って言い合える、仲間のコミュニティが大事です。決めるのは自分だけど、仲間が大事。それを語り合い会話できる人が一人でもいればあなたは大丈夫。

記者:これからの心の時代に、”心をつくる日本をつくる先生”っていう感じですね。辻󠄀さん、素晴らしいお話を有難うございました。

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【編集後記】

辻さんインタビュー集合

今回インタビューを担当した、大野、住吉、田中、池田です。まるで講演会を聴いているかのように素晴らしいお話でした。人間共通の課題に目を向けられているからこそ、どんな人にも可能性があるという、人間の尊厳に確信をもってお話しされる姿勢に深い愛情を感じました。これからのご活躍を心から応援しております。

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この記事は、リライズ・ニュースマガジン“美しい時代を創る人達”にも掲載されています。


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