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坂の下の焼きいも屋

まだ子供だった頃、毎週日曜日になると、家のそばの坂道を下った先に、焼きいも屋さんが来ていた。
焼きいも屋のおじさんは、近所のおばあちゃんと顔見知りで、いつもしばらくはその場にいて世間話をしていた。だから急いで呼び止める必要はなかったけれど、あのスピーカーから流れる「石や〜きいも〜」が聞こえると、いつだって飛んで行った。
きょうだい4人と、お母さんの分と、500円を握りしめて、少しドキドキしながらおじさんに声をかける。

「5本ください」

おじさんは黒ずんだ軍手で、にこにこしながら紙袋に焼きいもを入れてくれた。毎回おまけして多く入れてくれたから、おまけの分はいつだって取り合いだった。
家までの坂道を登る間に、茶色い紙袋は暖を取りたい私に抱えられて、よくクシャクシャになっていた。

さて、おやつは焼きいもにしようか。

好きな種類のさつまいもを、好きなだけ用意する。ただし、オーブンに入る分だけだ。今回は紅はるか。
家で石焼き芋は難しいから、オーブンにおまかせだ。
よく洗ったさつまいもを、水気が少し残ったままアルミホイルで包む。
天板に重ならないように並べたら、予熱なし160℃で90分。
気長に待ったら出来上がりだ。

しっとりねっとりの仕上がり。
すぐには食べられないくらい熱いから、たまにはのんびり、急須で緑茶でも淹れるとしよう。

あの坂の下の焼きいも屋さんは、いつの間にか来なくなってしまったけれど、焼きいもが大好きなのはこの記憶があるからだよなあ。

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