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感謝の力

私は困難なことを感謝することで乗り切ったことがある。困難なこととは、例えば、いじめにあった時、これは学生時代ではなく、働き始めてからのことである。上司や先輩に叱られることは結構あった。それは初めの頃であれば、致し方あるまい。しかし嫌味や皮肉、人間関係のギクシャクとなるとなかなか辛い。そんな時にはどうしても引け腰になる。心が内側に向いてしまいがちだ。その方が疲れないと思えるからである。また、これは会社を辞めて地域で働き始めた時、色々な人がいて厳しく批判された時もあった。自分の子供の世代の人から怒鳴られることもあった。それまでの社会経験では考えられないようなことを経験した。

自分はこのような時になぜかひとつだけ無条件に根拠もなく信じられることがあった。それは「自分は粘り腰だ」というものだ。なぜかわからないが、このことだけを支えにして何度でも当たって行くことができた。そしてもう一つ、困難なその相手に直接感謝することだった。言ってくれてありがとう、ごめん、そうかもね。という言葉を誰に対しても言えるようになったのは、50の声を聞いた頃だろうか。この感謝の言葉はそれまでの粘り腰以上に他人にもそして自分にも効果絶大なものだった。

感謝の言葉には3つの力がある。一つは無尽蔵に湧き出す力だ。ありがとうは何度でも言える。自分はなにも減らない。無尽蔵に繰り出せる最強の言葉だ。二つ目は関係を修復する力だ。反発していた関係がありがとうをきっかけにして相互に受け止めが起こり、反発力をなくしてしまう。そばにいても平気になるのだ。理由がなければありがとうなんて言えないというのは、損得のありがとうに縛られているようなもので、関係性のありがとうは柔軟で細やかである。声をかけてくれてありがとう、で済んでしまう。3つ目は生きる力だ。自分が発した感謝の言葉は相手と、実は自分も勇気づけてくれる。なんだ、ありがたいことじゃないか、というところにたどり着ければ前を向くことができる。落ち込んだ気持ちが上を向いてくるのだ。

感謝の力についてこんなに考えるようになったのは、やはりデンマーク留学のおかげだ。デンマークではOKが受け止めであると以前書いたが、もちろん、行動に対してありがとうと感謝することはあるし、すべてのことにありがとうというような言い回しも何度も聞いた。しかし困難な関係性の中で前を向くためのありがとうという表現は聞かなかった。もしかすると戦略(ストラテジー))として用いられることはあるかもしれない。日本語で言う感謝の言葉はその意味では相互の受け止めを助け、安心して話せる関係、デンマークで言う信頼関係を作るためのツールなのかもしれない。

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