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⑲義母の密かな狙い5 余談まで書いてすみません

韓国のマンションには古着回収箱が置いてあって、住人が不要な服や靴を入れる。業者が週一回中身を買い取りに来る。売り上げはマンションのものになる。
だからそこに入れられた物はマンションに所有権があり、誰かが勝手に持っていってはいけないことになっている。
ある日の夜、私はマンション正門脇のゴミ収集所にゴミを出して、家に戻ろうとしていた。その時住んでいたマンションは、古着回収コンテナがゴミ収集所とは離れて独立していた。古着コンテナの辺りは、木立の下になっていて暗い。
そこに誰かのシルエットが見えた。長い棒を手にした人物が、こちらに向かって歩いてくる。
私は恐怖を感じた。その者が急に走り出し、殴りかかって来るのではと一瞬思った。「ターミネーター2」で、サラ・コナーが棒状の武器(トンファーというらしい)を使っていたが、雰囲気が似ていたのだ。
また、韓国人の知り合いが昔、「大金をカバンに入れて運んでいたら、強盗に棒で殴られカバンを奪われた事がある」と話してくれた事があった。
そんな事がとっさに頭をよぎり、私は震え上がった。
しかし、その人物はすぐに街灯の光の下に入ってきて、姿がよく見えるようになった。中年女性で、右腕に服を1、2枚抱えている。左手には棒。それで分かった。彼女は古着のコンテナを棒を使って漁り、めぼしい服を拾ってきただけだったのだ。
そう言えば、ゴミ出しに行く途中、大きなコンテナに上半身を突っ込んで中身をかき回している人を見た気がする。昼間は人目があるので、暗くなってから出てくる夜行性のハンターである。
(何だ、そうだったのか)
ほっとして脱力した。女性は髪をまとめ、タンクトップ姿で、むき出しの腕は細すぎもせず、太ってもおらず、適度に筋肉がついている。タンクトップもパンツも白。
(サラ・コナー!)
と心の中でつぶやく。
一方でその女性は、私がずっと凝視していたので、まず気まずそうな顔をし、それから「何よ、何見てんのよ」と言いたげに睨みつけてきた。私はすーっと視線を逸らして家への道を急いだのだった。

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