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外食が苦行

義母と私と子供達とで外食した時のことだった。
注文した物が来てテーブルに並んだ。食べ始めて5分も経たないうちに、義母が言った。
「これ、食べないのか?」
義母が指しているのは真ん中に置かれた大皿のおかずで、まだあまり皆が箸をのばしていない。しかし皆が好きな物だから、
「食べていますよ」
と答えた。そのうち、各自が自分の前にある皿を空にして、大皿のおかずに取り掛かり始めた。しかし義母はまた言う。
「これ、食べないのか?」
「食べていますよ」
今、食べているところなのに、なぜそんなことを?義母がせっつくように言う理由がわからない。
やがて皆満腹になってきたのか、箸が繰り出される速度がゆっくりになってきた。
「これ、食べられないのか?」
と義母はまた尋ねる。私は面倒くさくなって、「はい」と返事した。待っていれば子供達はもう少し食べたかもしれないが、多分もう満腹に近いだろうし、大皿の上の料理は残り4分の1くらいになっていたためである。
義母はそれを聞くと、大皿を自分の前に引き寄せた。「気が進まないが、やらなければならない仕事」をしているかのような表情で、残ったおかずを平らげた。
外食して料理を残すことを、犯罪の如き禁忌と考えている義母なので、食べ切れないのではと気が気でなかったらしい。しかし、食べ始めていくらも経たないうちに、「食べないのか?」と聞くのはなぜなのだろう。ひどいせっかちであるのはわかっているが...…。
その日、普段はよく食べる健啖家の義母が、食事の前半はあまり食べていなかった。そして大皿に残った分は、一人で平らげた。
ひょっとして義母は、皆が好きではない料理を自分が引き受けるつもりで、皆がだいたい食べ終わるまで待っていたのかもしれない。それならそれでありがたい話ではある。しかし、食事が始まってすぐに「食べないのか」とせっつかれ、しかも何度も言われるこちらは、安楽に食べてはいられないのだった。

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