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⑮義母の密かな狙い

義母はうちに来ると散歩と称してちょくちょく外に出て行った。子供を外に一緒に連れ出してくれることもあった。しかし、その散歩というのは実は散歩なんかではなかったのである。
春、その辺の湿り気のある地べたに、ドルナムル(돌나물・ツルマンネングサ)というかわいい草が密生して芽を出す。散歩と言って出て行った義母が程なくして戻って来て、黒いビニール袋(韓国では活用されている)からドルナムルを両手のひらに一杯になるくらい出してきた。収穫を自慢するように、
「ドルナムルが生えてた。これ洗って」
チョコチュジャン(酢とコチュジャンを混ぜたたれ)を付けて早速食べることとなった。水っぽい、かすかに苦い、採れたての春の味だった。
次には、黒いビニールに満杯のヨモギを持ち帰ってきた。子供を一緒に連れて行っていたのだが、ヨモギを見つけて夢中で摘み始めて子供は放ったらかしとなり、飽きた子供達が先に帰って来た事もあった。
つまり、散歩とは口実で、何か手に入れられる物はないかと鵜の目鷹の目で捜索に行くのが実情だったのだ。
当時、周囲の高齢者は子供が誘拐されることを非常に恐れていて、幼稚園児を一人で外歩きなどさせなかった。義母も同じだったが、食べられる野草を見つければそっちの方が大事になる。帰ろうとする子供に、「誰かについて行ったりしないで!まっすぐうちに帰りなさい!」
と叫び、自分はヨモギやセリを摘み続けるのだった。
そして、義母が狙う収穫物は野草だけではなかった。

続きます… 長くなってすみません(^.^;)ゞ

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