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巨大毒蜘蛛、あらわる。(タカシ君の場合。)

隣の席のタカシくんは営業さん。
今日も元気に外回りに出かけた。

数時間後、私のデスクの電話が鳴った。
すました声で出てみると、それはタカシくんからの
営業結果報告だった。

ハイ、ハイ。承知しましたと報告を受けて
電話を切ろうとしたところ
タカシくんが急に弱っちい声で言った。

「タナカサぁぁん、蜘蛛、蜘蛛がぁぁぁ」
「でっかい毒蜘蛛がぁぁぁ」
と言うではないか。

タカシくんによると、
営業先から車に戻り発進させたら
不穏な気配を感じてふと左側を見ると、
助手席の窓ガラスに「それはそれはでっかい蜘蛛」が
「どぅどぅ~ぅぅん」と、張り付いていて、
あわてて窓を開けて外に逃げてもらおうとしたけれど
その蜘蛛は何故か
「ぶふぅぅぉぉぉ~」と車内に入り込んでしまって
その後見失ってしまったんだそうだ。

「ヤバぃヤバぃヤバぃ!!」
慌てふためいたタカシくんは最短ルートでコンビニに寄り、
車を降りてそのでっかい蜘蛛を探したが見つからない。
今でもその蜘蛛が車内にいると思うと
キモチワルくてたまらない。 
んだそうだ。

「ねぇ、タカシくん。それはカニだよ。」
私はそう言った。
それでもタカシくんは、
「絶対タランチュラだ」と言う。
ものすんごくでっかかった!
胴体がタバコくらいの長さだったと。

いやいやいや、いくらなんでもそれはないって。
盛りすぎじゃないの?
ここは日本だし、タランチュラは生息してないよ。
たとえばそれがタランチュラクラスのでっかさだったとしてもさ、
それには毒なんてないから安心して大丈夫だからね。

そう言ったけれど、
イヤだ、あれはでっかかった。毒があるはずだ。
と食い下がるタカシくん。

私は「タカシくん、それは蜘蛛じゃなくて
ワタリガニだよ」と教えてあげた。

「そっか、カニか。」
一瞬納得したようだったが
「いや、カニやない。蜘蛛や。
蜘蛛やなかったとしても虫や。
絶対にカニやない。」
すぐにウソだとばれてしまった。

そりゃそうだ。
ワタリガニが車内にいた方が
私的にも別の意味でちょっと怖い。

さて、次の営業先まで移動しなければならない
タカシくん。
蜘蛛を見つけ出す時間はなさそうだ。
だから私は精一杯安心させようとした。

「タカシくん、蜘蛛は人間には近づかないよ。
もし、近づいたとしても
ちょっとだけタカシくんの肩に乗って
休憩するだけだから安心してね。
タカシくん、ちょっと肩借りるネーってさ。」
ニヤニヤして、しかも悪い顔をして言った。

「いやや!背後取られるやんけ!」
「蜘蛛、まだ居る、キモチワルイ!!」
かなりの弱気だ。

いつも冷静そうなのに。
頼れるニキなのに。
シャバーニみたいに
ハンサムで強そうなのに。

それから一時間ほどして、
いつ、どのタイミングで蜘蛛から
「背後を取られるかもしれない」恐怖と
闘ったタカシくんは、営業先から戻ってきた。
そして、身振り手振りを交えてその時の話をしてくれた。
窓ガラスにタランチュラが
「どぅどぅ~ぅぅん」って張り付いていて
「ぶふぅぅぉぉぉ~」って車内に入ってきた話を。

私は腹を抱えて、涙が出るほど笑った。

そして結局、蜘蛛は見つからないままだったと。

「ねぇねぇ、タカシくん。
月曜日になったらさ、営業車がさ、
蜘蛛の巣のモワモワでい~~っぱいに
なってるかもしれないよ!」

そう言ったら

「いやや!ホラーや!!」と
彼は心底イヤそうな顔をした。

フフフ、週明けが楽しみだ。


(そういえば、毒蜘蛛騒動って最近あったな)



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