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なぁんかいいことないかしラァ?と言う先輩。

高校生の時に、暇さえあれば
「なぁんかいいことないかしらねぇ・・・」と
けだるく言う先輩がいた。
長めのたっぷりとした黒髪をゆびでクルクルしながら。
「なぁんかいいことないかしらねぇ・・・」の
最後の「ねぇ・・・」のところで首を45度に傾け
しかも上目遣いになる大技も持っていた。
17歳なのにかなり艶っぽい。


その先輩、実際モテモテだった。
いろんな男子生徒が告白していたけれど
だれもかれも、その願いを叶えることができなかった。
ワタシからしたら、そんなにたくさんの男子生徒から
思いを寄せられ、たびたび
「つ、つきあってください!」と言われること自体が
「なんかとてつもなくいいこと」みたいな気もするのだが。
先輩は満足しなかった。

たまに、鏡の前で先輩の真似をして
首を45度に傾け、短い髪の毛をモシャモシャしながら
「なんかいいことないかしらねぇ・・・」と練習をしたことがあったけれど
色黒で、まんじゅうみたいに丸々とした顔の私がやったところで
とうてい先輩みたいなお色気は出なかった。
しかもそれを姉に見られて、
「アンタ、ダイジョウブ??」
・・・本気で心配されたものだ。
私は一番見られたくない女に見られてしまって、
できることなら穴を掘ってブラジルまで行きたかった。

毎日、毎日
「なんかいいこと」を待っていた先輩。

たぶん、良いことがあっても
それを良いことって感じることが
できなかったのかもしれないし
いつも何かに不満を持っていたのかもしれないし。

その頃の私たちは
「ティーンエイジャー」だったから
退屈な毎日をなんとなくやり過ごしていて
時間だって無限にあるって勘違いしてたんだろうなぁ。

あの頃に戻りたいか?って、よくある質問だけれど
私は絶対に戻りたくない。

だって、いいこと探しが上手になったし
今がものすごく楽しくて充実しているから。
自分のために生きてる気がしているから。

あ、でも一回あの頃に戻って
一度は「モテキ」を経験してみたい気もする。
今なら髪も長いし、ぞんぶんにひとさし指でクルクルできる。
んで、
「あぁ、ごめぇん。わたしぃ、今ぁ、好きな人がいるのよぅ・・・」
なんてことを言ってみたい。けだるく、しかも上目遣いで。
ニヤニヤ。

あ、待って、あの頃に戻ったとしても
「モテキ」が来るとは限らんのでしたね。

えぇ、えぇ。なんかすみません。



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