超ざっくり

音楽理論を学ぶことで得られるもの

私は音楽の短大に通ってました。そこで得られた物は何かなぁ。と振り返る事があります。

というのは、作曲するにあたって音楽理論を学ぶことは必要か?という話がたまに出てきまして、その答えを自分なりに頭の中に纏めています。

ぶっちゃけ言いますと、ある程度のクオリティの曲なら音楽理論を学ばずとも感覚で作れます。鼻歌なら誰でも作れますよね:)
まぁこれも世の中に音楽が溢れてて無意識に感覚を得ているからなんですが。

あと「学校に通うよりスタジオで実践して身に付けろ。そのほうが効率的」という意見もあるんですが、この場合は「楽器演奏も含めた最終的な音作り」の事で、作曲能力を養う音楽理論とはちょっと筋が違います。

また例えばクラシック界でオペラ歌手になるのと一般の音楽業界でギタリストになるのでは道が大きく違うでしょう。音楽業界といっても作曲家、作詞家、演奏家、ミキサーなど分野が違い、それぞれ学ぶものが違います。

その中で音楽理論は「音の並べ方を学んで『クオリティの高い』楽曲を創る」ところまでであって、作詞や演奏、ミキシングなど録音技術やホールの反響の設計などはまた別分野なんですね。
最近ではコンピュータの発達によってその辺まで一人でする事が多くなってきたので、「作曲」という言葉の範囲が音響学、ミキシングまで広がっちゃってますが。。

では音楽理論で得られるものとは?自分なりの答えですがそれを見ていくことにしましょう。

響きの感覚を得る

今の一般的な音楽は、15,6世紀頃に体系化された音楽理論に基いて作られています。
そしてその理論はもともと、キリスト教の賛美歌を創るため、つまり神に捧げる為に美しい響きを求めるという目的の元に作られ、発展しました。

といっても、美しい響きかどうかを判断するのは人間であって、つまりは「人に心地いい響き」を纏めた理論、と言い換えることが出来ます。

つまり音楽理論は、(音符を並べていく中で)音の響きの美しさを追求した学問です。調和の取れたハーモニーと言うとイメージし易いかな:) 

美しくない響き

上記の通り「美しい響き」を追い求める中で、「美しくない響き」というのも発見されます。この響きは音楽理論の中ではやってはいけないこととなっており、それらは「禁則」と呼ばれています。
この禁則を知ることで「美しい響き」と「美しくない響き」を区別することが出来る様になるんですね。

参考までに、美しい響きと美しくない響きの簡単な例を。ピアノなど楽器で次の楽譜を参考に弾いてみてください。最初の小節が美しい響きの「ドミーレファードミ」、二番目が美しくない響きの「ドソーレラードソ」です。この響きの違いが分かりますか?


これは言われて初めて分かるようなことであり、一般的なコード進行を学んだだけでは理解できないどころか、学ぶ機会もなく、そんな違いがあることも自分で気づかない限りずっと知らないままでしょう。

個人的に、これが音楽理論を学んで良かった大きな理由の一つです。

コード進行を構築できる力

ネットで検索すると循環コード一覧みたいなのが出てきますよね。実はあれ、音楽理論を学ぶ上で丸暗記するような事はありませんでした。

というのは数学で例えると、循環コード暗記はかけ算九九を丸暗記するようなもので、音楽理論では「掛け算は前の数を後ろの数だけ足し続けるものです」という法則だけ教えています。もちろんある程度は暗記したほうが楽ですが全て暗記する必要はありません。

その法則とは「コードの機能」。以前「コード進行:IV-V-III-VIについて色々」でも書きましたが、これを覚えると「次に何のコードがしっくりくるか」が体感できるようになります。
これを覚えておけば作を曲ってる時に「きょ、曲がこのコードを呼んでいる・・・っ!」って分かるんですw。その次のコードも同じ感覚で導き出せます。
(作家や漫画家がよく言う「キャラクターが勝手に動き出す」ってのに似てると思います)

なのでわざわざパターンを覚えなくても、その瞬間思いつくんですね。しかも循環コードで指定された和音やコードの機能で指定された以外の、意外なコード進行を思いつくことだってあります。
(そのために曲を沢山聴いてストックを増やしていくんですけどね)

コードの動かし方

例えばC-Fという進行があったとします。コード進行だと「ドミソの次にファラドだよ」で終わるかもしれませんが、音楽理論では「まず最初はドミソとして、次はドファラかファラドか、はたまたラドファにするか、いやいや最初をミソドにしてみよう...」という選択があります。
なんでこんな手間な事をするかというと、上記の「響きの美しさ」を追い求め、同時に「禁則」に触れないためです。和音の配置(転回といいます)に気をつけることで、美しい響きになって、メロディが聞きやすくなったりしてスッキリし、曲のクオリティが上がるんですね。

安定したベースライン

上記コードの動かし方で用いた「転回」を更にベースラインにまで広げると、曲というかその瞬間の響きが安定します。この響きも同じく、Cの時に「ベースはド?ミ?ソ?」の中からベースラインの流れを見て美しい物、安定した感じの出る音を選んでいきます。この感覚も音楽理論を学んで養われます。

更に、安定したベースラインを作れるということは、意図的に不安定にも出来る、という事なんです。逆に言うと、理論を学んでいないとベースが安定したり不安定になったりするどころか、安定しているのかそうでないのかも判断できませんし、気にもしないでしょう。

楽曲分析

過去の曲の構成を調べることで、どこにどんな工夫がなされているのかを発見することが出来ます。例えば斬新なコード進行をしている曲を分析し、詳細を調べることで、そのコード進行を学び取り、知識として蓄えることが出来ます(これはパクりのようですが曲をまるまるパクっている訳ではないので大丈夫です)。

編曲能力

上記に書かれた事を実践すると、例えば先に紹介した「コード進行:IV-V-III-VIについて色々」にあるように、それぞれのコードを見直すことで、美しい響きを得て美しくない響きを排除することが出来、結果クオリティの高い曲が出来上がります。これが編曲の力であり、音楽理論から導き出せるんですね。

個人的に一番違いがわかるのは二人組のコーラス。ハーモニーの中で上で記載した「禁則」があったらおかしく感じてしまいます。それよりももっと美しい響きがある、と気づくことが出来、編曲に活かすことが出来ます。

ミュージシャンとのコミュニケーション

映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の終盤手前で、主人公マーティがチャック・ベリーの「Jonny B.Good」を演奏しますがその時「リズムはブルース、Bで入って合わせてくれ」というセリフがありますね。

これはつまり「ブルースのスケールでB♭メジャー」という意味です(ブルースなのでBはB♭になります)。この意味を予め知っていたバンドマンは即座に合わせて演奏することが出来ました。
もしこの言葉の意味を知らなかったらどうなっていたでしょうか。。。

こういった音階や調、コードなどの名前をお互いが知っておくことでミュージシャンとのやりとりがスムーズに出来る事も学びましたねぇ。

また楽譜を書く上で、上記と同じく「演奏家が即座に読み取れるように配慮する」事を学びました。演奏家は即座に読み取れる練習をするんですね。

その取り決めも音楽理論で学ぶことが出来ます。

即興/アドリブ能力

上記と似てますが、ギターソロやキーボードソロなど、即興でアドリブ演奏する時「今は何の調でコードは何か」これを知っておく事で、どのスケール(音階)の中から何の音を鳴らせば良いのか即座に判断でき、演奏が成り立ちます。演奏家の中で重要な知識だと思います。

例外

実は音楽理論から外れた所に「美しい響き」があるんです。これは条件が色々付いた時に偶然起こる美しさだったりするので、かなり特殊なケースなことも多く、また楽器の編成や音響効果によっても発見し得ます。

しかしこの「美しい響き」を見つけるためには、その感覚を持っていないと見つけられません。その感覚を養うために音楽理論が必要です。

理論を無視する能力

例外と似ており、そしてこれが一番伝えたいことなんですが、今まで書いてきたことは主にクラシック、オーケストラの曲を作る際に必要な知識であり、ポップスやジャズなどあらゆる音楽にも応用できますが、クラシック以外のジャンルでは無視しても構いません

無視されている一番簡単な例だと、ディストーションやオーバードライブをかけた際のギターのパワーコード。これは音楽理論を通して音符で見ると禁則だらけですw。ですがギターの低音で更にエフェクターで倍音を付加してやることで和音の違和感をなくしているので、心地よく聞こえるんですね。
(ただしパワーコードの場合、1オクターブ以上高くなるとおかしな響きになってくる)

またジャズも同じくテンションコードをたくさん入れることで禁則による違和感が抑えられています。

この様に、理論を無視した音楽は沢山あります。ならば音楽理論は必要ないと思われるかもしれませんが、音楽理論を知っていると「美しい響き」を知っているので、上の例のパワーコードもテンションコードも「美しい響き」の感覚からすると音楽理論から外れてるのに「美しい」と判断出来るんです。

コード自体の響き以外にも、次に続くコードが理論から外れているのにしっくりくる和音を見つけたり、楽器の組みあわせやリズムの取り方にも理論以外の美しさを見いだせるようになります。

この「美しさ」を知っていれば、理論を学んでない人が作った曲よりもクオリティの高い曲、今風に言い換えると「刺さる曲」を作ることが出来るんですね。

最初に美しい響き=人に心地いい響きと書きましたが、賛美歌なら確かに「心地良い」で正解ですが、更に突き詰めていくと「美しい響き=ダイレクトに人の心や感情にささる響き」ですかね。心地良いはその中の一つですね。

そして意図的に理論を無視する為には、理論を知っておかないと出来ません。知らないと無視できませんからね;)

以上を踏まえてまとめますと、

音楽理論で得られるものとは「音の響きの美しさを見極める感覚」

です。詰め込んだ知識よりも「感覚」ってところが重要です。

そのために音楽理論を学ぶのは充分アリだと思います。
500年の知識を数年で覚えられるんですから知らないよりはお得だと思いますし:)

確かに一般の人にはなかなか気にしてもらえない所ではあるんですが、こういう地味な努力が人の心を動かす事になるんじゃないかなぁ、と思うのです。

そして音楽理論を通じて「美しさを見極める感覚」を学んだら、今度はその美しさの感覚で音楽を創り、さらなる未知の美しさを追求していくのです。そのためには音楽理論を学んだ上で、それらを無視する勇気も必要になってきます。

理論は必要ですが、囚われていては駄目です。理論を超えたその先に「美しさ」はまだまだ残されています。

それを発見できるのは「美しさ」を知っている者だけなのです。


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