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夏の思い出
蚊取り線香の匂いがスイッチになっている思い出は数あれど、真っ先に思い出すのはこれだ。
小学校の6年生に上がると同時に自立心に燃えた私は自分の個室を作ってもらう談判を親とはじめた。
その交渉もようやく実を結んだのは夏休みに入った頃だった。
家族揃って夜更かしをしても良い夏休み。父と母と私と妹の我が家は全員TVっ子だったので夕方から寝るまでテレビの前にかじりついていた。
夜9時になると映画劇場の時間だ。夏休みは納涼でちょっと怖いプログラムになったものだ。その晩の上映作品は「犬神家の一族」小学6年生にはスケキヨは怖すぎた。
「おやすみなさい」
自室に布団を敷いて寝なければならないのだが、アタマの中はスケキヨのことで一杯で、寝るどころか叫びだしたい衝動に駆られる。
一計を案じた私は子供用の小さな布団一式を、父と母と妹が寝ている寝室まで引きずって行き、母と妹のあいだに割り込ませて何食わぬ顔で朝まで安眠した。
「ちゃっちゃん(当時の私の呼び名)!なにやってるの!!」母の怒号で起こされた。
布団を運び込んだからと言ってそこまで怒られる言われは無いと思ったが、だんだんアタマが冴えて来て状況がわかってくると、小学生の私でさえ少々震え上がった。
どういうことかというと
母と妹が寝ているあいだにいつもより広い隙間があったので自分の布団を滑り込ませることが出来たのだが、じつはその隙間には皿に乗った蚊取り線香が置いてあったのだ。もちろん火がついていた。
私が布団を滑り込ませたせいで、その蚊取り線香は転がって寝ていた妹のお腹の上に乗っかり、朝まで燃え続けたのだ。
なぜか発火することは無く、妹も火傷もせず最後まで燃え尽きた。焦げ跡が当時妹のブームだった化繊のネグリジェに螺旋状に残されたに留まった。
言うまでもなく、その後私は両親からこっぴどく怒られたが、犬神家の効果もあったので多分に情状酌量された。
蚊取り線香の匂いがスイッチになっている思い出は数あれど、もっとも痛い記憶はこれである。
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