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おうちDE茶の湯②-食べ物をいただくということ

ごきげんよう。裏千家教授・バイリンガル茶人の保科眞智子です。
「おうちDE茶の湯」では、茶道をされていない方にも気軽に取り入れて頂ける茶のこころをお伝えしています。今日は「いただきます」という言葉と、そこに込められる感謝の気持ちについて綴ります。


こころとカラダに栄養を
先の見えない巣ごもり生活。不安な日々を過ごされている方も多いと思います。家にいる時間が長いと、三度の食事がすぐやって来る気がします。これからのことを考えると気持ちはそわそわ不安なのに、なぜかお腹はちゃんと空く。空くどころか、これがもう何よりのお楽しみ!一日のメインイベントくらいな勢いです。”心とカラダに栄養を” 。巣ごもり家族の心身の健康を考えると、この言葉は殊更に響きます。


正式な茶会ー茶事(茶事)
茶道の作法は、美食を究極の型に落とし込んだものとも言えます。食は極めて原始的な営みであると同時に、茶の湯のように高度に洗練された精神文化でもあります。

茶事という正式な茶会では、濃茶(ポタージュのように濃厚に練った抹茶)をもてなしのハイライトに位置付けています。美味しく抹茶をいただくために、懐石料理、お酒、さらにデザートとして和菓子がふるまわれます。いよいよ濃茶いっぷくを頂き、その後は、薄茶と干菓子でほっこりします。茶事は、テーマに合わせた趣向の道具組み、献立、美しい所作でのおもてなしが総合的に組み合わさる、究極のもてなし五感体験です。正味約4時間に及ぶ日本のもてなし文化の極み、こころの交流はまさに茶の湯の醍醐味です。

茶道には、さまざまな点前や所作の決まりごとがあります。所作は、茶道で最も大切にしている和敬清寂の心を形で表現していると言えます。なので茶道のお稽古では、お点前や所作を繰り返し練習して身につけ、こころを表現する術を学びます。難しいお点前もありますが、どこまでいっても根底にあるのは「こころ」なのです。


「いただきます」に込める感謝
私の知る限り、「いただきます」と同義の挨拶は他の言語には見当たりません。茶道では「お点前頂戴いたします。」と言いますが、「いただきます」と同義です。食べものが目の前に至る経緯には、多くの人の手、そして動植物のいのちが関わっています。抹茶いっぷくにも、茶葉の生産者、物流に携わる方、器の作家など、多くの方が関わっています。水、火、空気など、自然の恵みがあって初めて呈することができるのです。「いただきます」ー私たちの祖先が残したこの言葉には、現代においても多くの示唆がありますね。外国人に説明すると、この短い言葉に込められたニュアンスにとても感心され、共感されます。

茶道のお稽古では、この感謝の気持ちをお辞儀や器物の扱いなど「型」で身につけます。でも、そこに気持ちが本当に乗ってこないと、ただ「型通り」で終わってしまいます。

食べ物は、生きるための栄養源であると同時に、心の栄養源でもあります。なので、ぜひ意識していただきたいのが、以下の二点になります。
①感謝の気持ちと向き合う
②「いただきます」の発声で態度に表す

こちらの記事に詳しく書きましたので、併せてご一読いただけたら嬉しいです。


全国に緊急事態宣言が出ています。


「こんな状況でも食卓に食べ物が並ぶことはありがたいな。」

この気持ちをしっかりと受け止めたいものです。
ありがたいは有難い、ほぼ有り得ないほど稀なことを意味します。食前には感謝の気持ちに向き合い、「いただきます」ときちんと声に出して言ってみましょう。

特にお一人での食事だと疎かにしてしまいがちですが、食事は社会とのつながりを感じられる絶好のタイミングですので、ぜひ忘れずに意識なさってみてください。


さて、最後に抹茶とお菓子で実践です。

お抹茶を味わう時、甘いものを先に少し口に含みます。お茶の風味を十分に引き出すためです。和菓子ならではの繊細な色やかたちも意識して。器も大切ですね。和食は”目にもご馳走”なのです。

深い呼吸を繰り返すことで心を落ち着かせ、五感を研ぎ澄ませます。鼻からゆっくりと。恵みに対する感謝の気持ちを持つことで、食べものは驚くほど美味しさが際立ち、幸せな気持ちになります。 ぜひ試してみてください。

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