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蜘蛛の糸

真っ昼間の直射日光が辛い。
なに?11月だよ、この気温って変じゃね!
例年だとこの時期に庭の紅葉が真っ赤に色付いているはずなのに
今年は夏場に緑色していた葉っぱが赤くならずに茶色に変化し始めてる。
ちっちゃな子供の手みたいな形の葉っぱを元気良くパーに開いて
真っ赤に染まってるはずなのに、
今年は指先を茶色に縮こまらせて、いくつかが力なく落ち始めてるんだ。
諸事情があって、今年いっぱいで切り倒さなければならなくなってしまった
この紅葉の樹なんだけど、長年我が家の庭でその存在をはっきりと主張し続けていた
立派な紅葉は、まるで自分の運命を悟ったかのように淋しく佇んでいる。
俺はこの庭の色んな樹木に囲まれて育って来たんだなとしみじみ思い出してる。
太くて広々と空高くにまで枝葉をのばし、雄大にそびえ立っていたいた欅は
秋になるとその湛えていた沢山の葉っぱを落とすために、近所迷惑になると言う理由で。
柿木も大きくなりすぎていて、熟した実が道路に落ちるとハエや虫が湧くからと。
金柑も、実を食べにくる鳥のふん害と棘がある果実類は手入れが面倒だったり
朴の樹も大きくなりすぎて陽当たりを妨げてしまう。
椿、桜、藤、松、糸ヒバ、栗、銀杏もあったんだ。


それもこれも、諸事情で今年いっぱいで全てを手放す事に相成りまして候。





抜けるような青空に突き出た小枝から
フワリゆらりキラキラと蜘蛛の糸が漂っている。

ずっと暮らしている俺の部屋なのに
なんとなく、俺の居場所はここじゃないと
いたたまれなくなって飛び出して来た。

緩やかな秋風に遊ばれて
流れるような綺麗いな曲線を描き
ぼんやりと空に溶け出した半月と
遊んでる。

消え入るような小声で俺の名前を呼ぶ声が
冷たい風に乗って運ばれて来て
握り締めたスマホが手のひらに電撃を与える。

細く儚い糸で繋がれていた君との縁は
震える手のひらの中で
フワリゆらりキラキラと輝き出し
あの部屋に残して来た
青空の朧気な月と結ぼうとしている。

手を伸ばし、あの糸を手繰り寄せ
小枝を持つ君の手を捕まえれば
その先にはいつもの日常があるのだろうか。

そよ風に千切られた
蜘蛛の糸の切れ端が舞い降りて
震えをやめたスマホの画面に
一筋のひび割れとなって残されていた。

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