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蘇州新区「商業街」の今... Vol.1

■俺はこの街を愛し、そして憎んだ…

蘇州新区淮海街。
通称「商業街」として在蘇州の日本人に愛されてきた街だ。
そんな商業街に今異変が起きている。

私は2003年12月に在住日本人向けの日本語フリーペーパーを創刊するために初めてこの街にやって来た。
片側一車線ずつ、およそ15mほどの道幅の小さな通りには、当時、約50軒ほどの日本料理店と約40軒ほどの日式クラブ、バー、スナックが建ち並んでいた。

初めてこの街を訪れたのは前述の通り12月の真冬の昼さがりだったため、開いている店はほとんど無かったが、中国という異国の地にこれだけの日本語と日本の文化が存在していることにビックリしたし、同時に「日本」の国力、というか当時の日中間の力関係を肌で感じた。
また、これからここでやろうとしているビジネスの成功をも確信した。

基本的に街の様相は今も変わらないが、もう10年ほど前からいわゆる女性の接待を伴う日式のクラブ、スナックはほぼ消滅し(現在はほんの数軒)、その分若干増えた中国料理店と新規の日本料理店がこの通りにひしめき合っている。

さらにコロナ禍の中、地元政府の肝入りでリニューアルしたこの街は、ここ数年の日本ブームや国外旅行に行けない人民の欲求不満の吐口の意味もあり、在住日本人よりも中国人客がかなり増えたようで、リニューアル後のこの街は「特色日本街」として全国から大量の中国人が押し寄せるようになったと聞く。
かつて日本人向け、しかも男性駐在員がメインターゲットだった頃のこの街では様々なドラマが繰り広げられた。
経済成長が著しく、生馬の目を抜くような中国社会の中で、ある意味それを支えたとも言える日本の企業戦士たちは夜な夜なここに集い、気勢を上げた。

英雄色を好むの通り、ここでは酒とオンナとカネに絡む痴情のもつれは日常茶飯事。
騙し騙され…いや多くの日本人駐在員が騙され人生を狂わせた人が続出した。
ここは確かに中国だが日本人にとってのオアシスであると同時に伏魔殿でもあった。
ここに無いものは無かったしある意味無法地帯。
日本料理やクラブ、スナックはもちろん、違法風俗店、パチンコ、スロット、日本人専用の雀荘まであったし、自宅では日本のテレビをリアルタイムで観ることも出来た。

それらは全てがビジネスチャンスであり、地元の中国人からすれば、日本人が落とすお金に群がるのも当然と言えた。
私はそんな日本人が落としたお金を広告の形で中国人オーナー達から回収したとも言える。
が、回収したはずのお金もまたこの街に落としていったのだった。
長渕の唄ではないが、文字通り「俺はこの街を愛し、そしてこの街を憎んだ」過去がある。

■日本街での和服騒動


そんな「特色日本街」淮海街、通称「商業街」に先々週衝撃が走った。
和服(厳密には浴衣?)姿で街を訪れ写真や動画を撮影していた中国人女子が警察(厳密には『補警』と呼ばれる治安維持のため警察下部組織。準公務員)に捕まったのだ。
その理屈もめちゃくちゃで「お前は中国人なのに何故和服を着ている?」とのたったそれだけの理由で連行されてしまったのだ。
その模様の動画を本人らが隠し撮りしていたため後にTikTok、微博(中国版Twitter)などのSNSに流出。中国全土は元より日本にも瞬く間に拡散した。
もちろんSNSでは大きな反響が寄せられ、その多くは警察に批判的なものであったが、一部には警察を擁護し、和服女子を非難するコメントもあった。
その後、警察も折れたのかこの女子を連行した補警は後日彼女の自宅を訪れ、両親に対して事情を説明し、無理があったことについては認めたとの報道。但し謝罪は無かったとも伝えられている。

■日本語禁止の通知


そんな折も折、さらに先週、衝撃的な情報が飛び込んで来た。
毎朝のルーティンでもあるリモート会議の終盤、何気ない会話の中で社員がこんなことを言い出した。

「老板、昨日ぐらいから商業街では看板やメニューに日本語使っちゃダメになったみたいですよ」
※老板 (ラオバン=社長、ボスの意味)

「えー?だって日本料理店なんだから日本語なのは当然じゃない?」

「そうなんですけど、役人が各店舗を廻って指導してるみたいです」

私はさっそく裏を取るべくこの街で飲食店を数軒経営している旧知の経営者の方に連絡してみた。
結果、得られた情報は本当であった。

要約すれば以下。
・看板、店内ポップ、店内メニュー、衣服、その他全ての表記について日本語の使用を禁止とする
・店内での日本のテレビ(ネットテレビ等)、日本語映像等の放映を禁止とする
・今後1ヶ月以内に改善せよ
・以後、違反した店舗については一度につき2万元(約40万円)の罰金を課す

という内容であり、店に配布された通達文書も入手し確認した。
※通達文書の写真は転載しないで欲しいとのことなのでここでは非開示とします。

役人による指導の中にはさすがにやり過ぎとも思える内容も含んでいた。

例えば漢字の使用について、中国の公用漢字である「簡体字」フォントを使用しろ、との指導。

一例を挙げると「魚」は禁止。
「鱼」を使用せよとのこと。

この話は別の店の店長クラスの人から聞いたのだが、これには笑うしかない、と彼女は語った。

■また反日戦術?台湾有事との関連は?


ここまで読むと「あー、また中国がやりやがったな」との反応になるのだが、事情はちょっと違うらしい。
ここは確実な裏が取れていないので、なんとも言えない部分もあるのだが、可能な限りの遠隔取材をした結果としては、必ずしも「反日」的な意味あいばかりではないようである。
これにはコロナ禍やそれに伴う景気後退と社会問題が深く関わっていそうなのだ。

長くなったのでこれについては次回。

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