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物が捨てられない理由

私は物が捨てられない。
物がないと思い出が蘇らないからだ。

特に直筆の物は捨てられない。
ほしいと思って手に入る物ではないからだ。
″直筆″は私にとって一番愛を感じる方法だ。
その人と会えなくなってからほしいと願っても
決して手に入らない。
誰かからもらった物も捨て難い。
インクの出なくなったボールペンも『宝棚』に入れて
保管してある。

次に捨てられないのは消化していない本である。
私はたくさんの消化不良を持っている。
昔興味のあった分野は鬱になって手がつけられず
溜まりに溜まっている。捨てたらいいのに、
捨ててしまったらその時の時間ごと捨ててしまうような
気がして未だ捨てられない。
画材も同じ理由で捨てられない。
まだ何か自分には創作の希望が残っているのではと
期待してしまう。もう絵なんか描けないのに。

捨てられない物が増えるたび、
生きることに固執していると感じる。
そして死を感じてしまう。

明日、これをくれた人が死ぬかもしれない。
この物と過ごした時間に隣にいてくれた人が
この世から去ってしまうかもしれない。
そう思うと本当に捨てることが恐ろしくなる。
その人の命を私は捨ててしまっていると
錯覚してしまう。

本当はすべて作品に昇華してしまいたい。
脳に収めてしまいたい。
だけど、もうそんな元気、
何年待っても私には戻ってこない。
枯れ井戸になってしまった。
物に溢れた部屋を見るたびに、
己の空虚さを実感する。

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