【生成AI】創造性のシンギュラリティは訪れるのか
AIに対する漠然とした不安と模索
AIは人間の仕事を奪うのか?生成AIブームが到来した昨今、多くの人がこのテーマに関心を寄せ、様々な議論が巻き起こりました。今すぐ世の中がひっくり返るほどの変化は起こらないだろう、しかしあまりに急速な情報の波についていくことは難しく、何となく漠然とした不安もある、そう考える人が多いのではないでしょうか。
「現時点でのAIの性能って実際のところどうなの?」という問いに対しては、WIREDのこちらの動画が端的で分かりやすい答えだと思います。
ネット上でよく見られる「ヤバい!スゴイ!未来!」といった見出しと共に出される事例は、あくまで上手くいっている例であって、実際はそこまで実用的にコントロールできない事も多いというのが実情でしょう。現状は、あくまでクリエイターをサポートする補助・効率化ツールでしかないのです。
それでは、AIが人間の創造的な領域に侵食してくることはないかといえば、その可能性を考えておく必要はありそうです。
フェーズ0:人間の仕事を侵食するAIデザイナー誕生の兆し
いつ、どんな機能を得た時に、AIは人間の創造性を脅かすのか。
それは、AIが膨大かつ細やかなフィードバックを反映して画像や動画を生成できるようになった時なのではないかと私は考えています。
その兆候は、ファッションブランドSHEINのデザインプロセスに既に表れているかもしれません。
SHEINは、AIを駆使してターゲット層の行動や検索からファッショントレンドを分析し、その情報を元にデザイナーが瞬時にアイテム案を制作、膨大な製品ラインナップをリアルタイムに更新するという、極限まで効率化した生産プロセスを確立しているそうです。これは、単純にデザインプロセスのみならず、国内の強力な生産体制管理と組み合わせることで実現できる技なのでしょう。
売れ筋の商品をデザインするとき、デザイナーは自分の発想というよりは、データに支配されたデザインを考案することになります。そして将来的には、画像生成AIの精度向上やツールの組合せによって、デザイナーの介在が不要になる可能性は十分考えられそうです。
そして、この構図はファッションに限らず、幅広いクリエイティブ分野にも生まれることは想像できます。
フェーズ1:超効率化AIデザイナーの登場
たとえば、InstagramのようなSNSへの投稿画像のエンゲージメントをフィードバックし、そこから得られた絵の構図、カラーパレット、反応の多い世代・属性といった情報を細かく学習できるようになれば、ターゲットに最も効果的な画像を瞬時に生成する、そんなアルゴリズムは理論的には考えられそうです。
もしこれが実現すれば、WebマーケティングおけるA/Bテストや広告PR、製品グラフィックなどのデザイナーの仕事は、AIの方が優れた成果を出せるようになるかもしれません。
また、WEBサイトの画像やデザインをターゲットの好みに合わせてリアルタイムで生成し、ひとつのワイヤーフレームから異なるデザインを作る、そんなシステムも生まれるかもしれません。
膨大なデータを集積し、デザイナーの介在が必要ないほど精度の高いデザインを自動生成する。ここまで極端にAIがデザインフローに組み込まれるには、おそらく相応の時間がかかることが考えられます。また、動画などより複雑なメディアは更に時間がかかるこでしょう。それでも、ここまでは、私たちが生きているうちに起こりえる変化、少なくともSFではない話に思えます。
しかし、ここまで来ても、個人的にはまだAIのクリエイティブの勝利とは考えていません。
フェーズ2:次のトレンドをつくるAIデザイナー
なぜかといえば、人間は似たようなものを見続けると飽きてしまいます。そこに、理論的に考えたらそれじゃないよね、というような、ちょっとした突然変異的な違和感が挟まることで、目立ったクリエイティブが生まれ差別化になります。
また、「これ変だな」「かっこよくない」と最初は思っていても、何度か見続けているうちに新鮮でかっこよく見えてくる、そんな現象が多くあるのもクリエイティブの面白いところで、こうした次のトレンドを新しく作るような潮流、突然変異、違和感、そういったものは単純なデータ解析だけでは出来ないように思われるのです。
もし、AIによる解析データがより緻密で超膨大になり、人間の分析では気が付かなかったような密かなブーム、次のトレンドになりえるような微妙な動きを検知してデザインを生成していく、あるいはブームを作るような更新手法を起こす…そこまでできるようになったら凄いことで、「AIの発想力には私は勝てない」と自信を失うデザイナーも増えてしまうかもしれません。ただ、この話は若干SFの領域に差しかかる気もします。
では、AIが人間にも分析できないような動向を捉えて新しいトレンドを生み出せるくらいの発想力を持ったクリエイターになれば、人間の創造性は本当に必要なくなってしまうでしょうか。
フェーズ3:最後に人間に求められるもの
私の現在の見解は「それでも人間の自由な発想は求められる」です。
先述のSHEINでは、AIを活用して売れ筋を分析する一方、デザイナーの個性によるオリジナリティのある製品も何割か混ぜているようです。たしかに、SHEINの製品の中には、非常に個性的な商品もたくさん含まれており、それが新鮮で意外に感じた記憶があります。
この戦略も、人間とAIの将来像を考えるうえで示唆的です。どの企業も同じようにAIの分析による売れ筋商品だけしか出さなくなれば、他社とのブランドの違い、差別化が出来なくなってしまうので、何かで異なる色を出さざるを得なくなってくるはずです。
その「差別化」とは独自性や世界観であり、人間の独創的なオリジナリティがどこかしら求められていくはずなのです。
まとめ
生み出すこと、創造することは人間の喜びであり、それがAIによって奪われるとしたら、寂しく哀しい話です。しかしながら、独自性のある世界観は、企業の差別化、ブランドコンセプトともに、どこまで行っても生き続けるだろうというのが、現時点での私の未来予想図です。
「世間に受けるもの」と「自分が作りたいもの」の狭間で葛藤するクリエイターは、どのジャンルにも多いはずです。しかし、将来は「世間に受けるもの」はAIに代わられ、自分が作りたいものを作り続けることにより高い価値が生まれる、という可能性は十分あるのではないでしょうか。そしてそれは、AIに奪われる脅威の将来ではなく、明るい未来なのかもしれません。
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