bonus track(450文字)
さよならの練習なんて、そんな悲しいことをしなくちゃいけないのが辛かった。
みんなを置いて、先に遠いところへ行くのがいやだった。
でも、それすらも許されないのだと知った。この世界に救いなんてなかった。それでもこの世界にいたかった。
寒いのはきらいで、あたたかいのがすきだ。彼の住む家の縁側がすきだった。この世界でいちばんあたたかくて、しあわせな場所。
扇風機の風を浴びながら、溶けかけのアイスを食べた。
風鈴が、ぬるい景色を涼やかな音で彩ってくれた。
庭の芝生に水をやる彼の癖毛が、ふわふわと揺れた。
洗濯物がたなびいて、柔軟剤の香りが鼻をくすぐった。
振り返ればいつも、なんでもない夏を切り取った風景が、確かにそこにあった。
思い返してみると、決して辛いことばかりじゃなかった。
悲しみに打ちひしがれて、泣いても、喚いても、どうしようもなくっても。
それでもみんなが愛してくれたから、あたしはあたしを生きようと思えたのだ。
だから。
終わりを迎えるのなら、あの縁側で。
だいすきな、彼のそばで。
果たして、吹雪の願いは叶ったのだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?