「鎌倉の洋館で茶の湯を」利休の先を生きる時代のために
紫陽花の花に町が包まれている6月。
鎌倉の洋館で楽しむ茶会を開催いたしました。
これまで数々の名席と言われる近代数寄者の残した茶室を中心に建築作品として優れた茶室での席を披いてまいりましたが、今回初めてテーブルと椅子による洋間での茶会を試みました。
流泉庵からの活動期間も20年を経て、そろそろ足腰の不安で茶会への参加を躊躇う方が出始め、最近のいくつかの出来事もあり、座礼だけの茶ではなくもっと広い視野で考える必要性を感じておりました。
しかしながら、御園棚やタワフルで腰掛の立礼席ではあまりに安易で創造性がなさすぎると思い様々な手がかりを求めていた矢先にある古い本に出会いました。
そこには「洋間での薄茶」「椅子点て」として立礼卓ではなく応接間のテーブルを用いた点前、客の作法から半東の動きまでが解説されていて、表千家はこの時代(即中斎時代)の方がむしろ先進性があったのではないかとさえ思いました。
今回古い洋館の応接間でこのスタイルを再現してみました。
ただしこの時代の椅子点ての根拠は生活の洋風化であって高齢化社会での正座問題とは少し観点が違っています。
シモーヌドヴォーヴォワールの著書の中に「キリストは37歳の男盛りで亡くなっているのでキリスト教には老いに関する教えがない」というようなことが書かれておりますが、千利休も70歳で概ね健康なまま自刃して人生を終えていることから、茶の湯の教えにも80〜100歳まで茶を点てるという想定はなかったと言っても良いでしょう。老人点前と呼ばれる「仕組点て」もせいぜい近世の60歳を基準に定められたものと思われます。
人生100年時代とはいささか大袈裟かもしれませんが、多くの人が長生きをする現代の我々は千利休の先を生きなければならない宿命を負っております。
作法に則った茶室の茶は少しづつ若い世代にお任せして、これからは心も体も楽でお洒落なお茶を想像するのも楽しいものではないでしょうか?