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メゾン・ド・モナコ 1 (あらすじの下に本編続きます)


表紙

《あらすじ》


人間のなずなが、アパートで暮らす妖達と一緒にちょっとずつ前を向いていくお話です。

住宅街から少し離れた場所にある、古びた洋館のアパート、メゾン・ド・モナコ。そこには、火の鳥のフウカ、化け狸の少年ハク、水の妖のマリン、狼男のギンジ、猫又のナツメ、社を失った貧乏神の春風が暮らしていた。なずなは、祖母から預かった曾祖母の手紙、その宛名主を探していた時、火の玉に襲われ彼らと出会う。その手紙の宛名主を知っているという春風は、火の玉の犯人と疑われているアパートの住人達の疑いを晴らすべく、なずなに、彼らと共に過ごす条件を出した。なずなは、音楽への夢を断たれ職もない。このアパートでのハウスキーパーの仕事を受け、なずなと彼らの生活が始まる。
少年ハクが踏み出した友達への一歩。火の玉の犯人とフウカの因縁。グローブに込められたフウカの思い。なずなのフウカへの恋心。町内会イベント。春風と曾祖母の関係。なずなは時に襲われながらも、彼らとの仲を徐々に深めながら、なずな自身も、振られた夢から顔を上げ、それぞれが前を向いていく。
ちょっとずつ過去から前を向いていく、なずなと妖達、そして生まれ変わるメゾン・ド・モナコのお話です。



《本編》


春一番の風が吹いた。

桜の花びらが飛び交う中、若葉色の着物を着た黒髪の少女が振り返る。

春風はるかぜ!」

こちらに向かって、彼女が手を振った。着物に桜の花びらが散り、まるで、彼女が春を連れてやって来たみたいだ。
その麗らかな陽気の如く優しい笑顔に見つめられ、ようやく気づく。

春風、そうか僕の名前だ。

彼女が自分を呼んでいるんだと思うと、胸の内が自然と温かくなる。春風はそっと口元に笑みを乗せながら、彼女の元へ歩み寄った。
春風より一足早く白猫が彼女の足元にすり寄り、彼女の視線が春風から外れると、桜の花びらが再び舞い上がり、春風の視界を奪っていく。
彼女を見失ってしまう、春風は思わず手を伸ばした。

「待って、」

花びらが渦となり、彼女を呑み込んでいく。必死に伸ばした手が掴んだのは、花びらだけだった。春風は花びらを握った手を開くと、手で顔を覆い、膝から崩れ落ちた。

「…待ってくれ」

その声は誰に届く事もなく、桜の花の海へと沈んでいった。

はっとして目を開き、視界に飛び込んできた見慣れた天井に、春風は深く息を吐いた。

「…夢か、」

呟き、目を手で覆った。
彼女は、もうこの世にいない。それは、流れる年月が証明している。人間の一生は短い、けれど、心のどこかで春風は今も彼女を探している。春のような笑顔を浮かべて、彼女がまた自分の元へ帰って来るのを待っている。

メゾン・ド・モナコ。彼女が愛したこの場所で、春風は、彼女の夢の続きを今も生きている。



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