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日記:5月19日(金)「スピッツの新譜を聴いた&『プール』」

スピッツの新作アルバム「ひみつスタジオ」がリリースされた。今作は、「オバケのロックバンド」や「めぐりめぐって」のような曲から感じ取れるように、改めてスピッツとはどういうバンドか再定義されたようなアルバムであったと考えている。

一聴しただけで耳に残るメロディは健在、それに加え「めぐりめぐって」で”守ってくた捻くれもちらりのぞかせて“と歌っているように、「美しい鰭」のAメロでは変調子を用い、「未来未来」では民謡の要素を取り入れ、件の「めぐりめぐって」でもCメロで大きく展開を変えるなどの捻くれ要素も兼ね備えている。実にスピッツらしい楽曲が集まったアルバムになっている。

アルバムのリリースは約3年半ぶりだが、その間にリリースされたシングル曲「猫ちぐら」は収録されなかった。あの曲も良い曲だから曲目が発表された時は無いのか~と寂しく思っていた。しかしこのアルバムを聴いた後、リモートで録音した「猫ちぐら」のその先の世界が、4人が集まって音を鳴らす楽しさ、肉体性が表現されている「ひみつスタジオ」なのだと思ったら、「猫ちぐら」が収録されていないのは自然な形だと感じた。いずれにせよ今作は、私にとって今後も聴き続けるアルバムになるのは間違いないし、これからも噛み締めて聴きたいと思う。

スピッツは今日まで数々の名曲を世に届け続けている国民的バンドだ。代表曲は○○で~とか、今更自分が説明するまでもない。
メディア露出が多いバンドではないが、恐らく特定の年齢層に偏らず、幅広い年代に聴かれているのではないだろうか。

幅広く聞かれる邦楽、J-POPにはいくつかの条件が必要であると思う。例えば、耳に残りやすいメロディとか、歌声や歌唱力。スピッツもこの条件はクリアしていると思う。スピッツをあまり聴いてこなかった人でも「チェリー」や「ロビンソン」といった曲はサビだけでも口ずさめるくらいには印象に残っていると思うし、草野マサムネの歌声も似ている人は他に無く唯一無二だ。

後は歌詞の分かりやすさ、共感しやすさも重要であると思う。名曲と呼ばれるものは、メロディやアレンジと同じくらい、またはそれ以上に歌詞、歌われる言葉への支持が大きいのだと思われる。
ではスピッツはどうか。他のアーティストには無い言語感覚や表現がスピッツ、草野マサムネの詩世界の魅力であると思うし、実際スピッツの歌詞は評価され、支持されていると言っていい。
分かりやすいものもあるが、中には捻くれていて、独特な比喩表現を用いていてすぐには分からないものもあると思う。しかしそういう一筋縄では行かない所も魅力の1つとも言えるだろう。

私の中で歌詞がどういう意味なのか気になった曲の1つに「プール」という曲がある。そもそもこの曲自体好きなので普段からよく聴くのだが、正直歌詞がよく分からずにいた。歌い出しはこうである。

“君に会えた 夏蜘蛛になった
ねっころがって くるくるにからまってふざけた
風のように 少しだけ揺れながら“

歌い出しから早速分からない・・・。何故君に会ったら夏蜘蛛になるのか、そもそも夏蜘蛛とは何か・・・。蜘蛛が虫の事なのは勿論分かっているけれど何故蜘蛛・・・と早々に悩まされた。

それをどう解釈するのかが聴き手である自分の役目であり、解釈も自分次第だと思うのだが、結局何の結論も出ないまま、ただただ良い曲だからと思って聴き続けていた。

そんな中で去年発売された「スピッツ論 「分裂」するポップ・ミュージック」という書籍を購入した。読み進めていくと、「プール」の歌詞に登場する夏蜘蛛に関する解釈についての記述があった。この本の前後の内容も大事になってくるので、内容を抜き出してここには書かないようにするが、読んだ時に「あぁなるほど」と、ようやくこの歌詞の意味が飲み込めた。あくまでこの本の著者の解釈である事には違いないが、ほぼ答えだと言っていいと思う。

去年投稿した上記記事にも書いたが、普段から何気なくスピッツを聴いていたけれど、自分は上っ面だけをなぞっていただけで、そこから奥深くまで入り込んでいなかった事をこの本を読んだ時に思い知らされた。それは歌詞の解釈に限らず、「プール」が収録されている「名前をつけてやる」というアルバムは、RideやMy Bloody Valentineといったバンドからの影響を受けて制作されているといった背景も知らずに聴いていた。別にそういう事を知らなくても楽しく聴く事は出来るし、自分もそれを他人に強要する気はないが、ある程度背景を知っておくと分かる事、発見もある。
スピッツは国民的バンドであり、J-POPを語る上でも欠かせないアーティストだが、想像以上に聴き逃してはいけない要素が多いバンドでもあったとこの時気づかされた。

そうした経験からもっとスピッツの事をよく知ろう、もっとその周辺の音楽も聴いてみようと考えるようになった。実際、去年Apple Musicで一番再生したのはスピッツだった。去年は恐らく人生で一番スピッツを聴いた年であった。

幼い頃から親が車でスピッツを流していたのを聴いていたので(今思えばあれはメンバー非公認のベストアルバムだった)彼らの曲はその頃から馴染み深かったが、これからもずっと聴き続けようと思ったここ数年の事と、今回の新作アルバムだった。

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