アメリカにおけるリベンジポルノ処罰法制の動向とその合憲性に関する近年の州判決 State v. Van Buran(Varmont Supreme Court, 2019)

アメリカにおけるリベンジポルノ処罰に関する経緯は、内閣府のこのページが詳しい。

 上記の研究は2013年に行われたものであるところ、その後アメリカ全土でリベンジポルノ処罰の法制化が進み、2022年9月現在では、マサチューセッツとサウスカロライナを除く48州に加え、コロンビア特別区とグアムにおいて、リベンジポルノ処罰法(正式にはnonconsensual pornography statute)が導入されているようである。アメリカ全土をカバーするような連邦法は存在しない。

(上記内閣府のウェブサイトからもリンクが飛ばされているが、アメリカにおけるリベンジポルノ法制推進団体CCRIのページが詳しい)。

 上記内閣府のウェブサイトでも指摘されているように、リベンジポルノ処罰に関しては、それが合衆国憲法修正第1条(the first amendment)に規定された言論の自由(freedom of speech)を侵害しないかという議論があった。
 立法による言論の制限が許容されるかどうかについては、厳格審査を用いて検討される。厳格審査とは、政府による表現規制の目的が、「やむに已まれぬ利益(compelling interest)」のためのものであるかどうか、また、規制ために採用した手段が「必要不可欠(necessary)」 又は「狭く策定された(narrowly tailored)」ものであるかということを立証する必要がある。この際、確立された言論の自由の保護の対象外となる類型(カテゴリー)にあてはまるかという方向性から検討することもある。(厳格審査と異なる考え方ではなく、厳格審査によって保護の対象外であることが歴史的に確立されたパッケージに当てはまるかを検討するというものである。)
 リベンジポルノの規制に際して上記の論点について判示したのが、今回紹介するバーモント州最高裁による、バーモント州対ヴァン・ビュラン判決(State v. Van Buran)である。(連邦最高裁の基準に従って州の最高裁が合憲性を判断したものである点に注意。)

State v. Van Buran
Vermont Supreme Court, 2019.
214 A.3d 791

【前提:バーモント州法】 
○13 V.S.A §2606(b)(1)
 裸になっている、または性行為をしている特定可能な人物の視覚的画像を、本人の同意なしに、描かれている人物に危害を加える、嫌がらせをする、脅迫する、または強制する意図で故意に開示し、その開示によって通常人が損害を被るような場合には、本条項に違反する。画像そのものや画像に関連して提供される情報から、個人が特定される場合があるとする。視覚的画像の記録への同意は、それ自体では当該画像の開示への同意を意味しない。
 本則に違反した者は、2 年以下の懲役もしくは 2,000 ドル以下の罰金、またはその両方を科されるものとする。

(注:「裸」「性行為」「視覚的画像」「危害」「開示」についてはそれぞれ§2606(a)において定義規定あり。)

【事案概要】
 被害者は、自分自身で裸の画像を撮影し、(恋人ではない)知人男性にフェイスブックのメッセンジャー機能を通じて送信した。その後、男性のフェイスブックアカウントによって、被害者のアカウントのタグ付けとともに当該画像が投稿されたことに気づいた。被害者が男性に今すぐ画像を削除するよう留守番電話を入れたところ、男性の恋人である被告人Van Buran(女性)から折り返しがあり、被害者を侮辱する発言とともに、被害者の職場等に連絡して人生を台無しにしてやるといった脅迫があった。 
 バーモント最高裁では、バーモント州法§2606(b)(1)は言論の自由について規定する憲法修正第1条違反であるかが争われた。この点について、バーモント州は、①リベンジポルノはわいせつ表現又はプライバシーの侵害として言論の自由の保護の例外に当たる、②表現の自由の保護の例外に当たらないとしても、州法は目的の達成のために狭い範囲で規定されている、として憲法違反ではないと反論した。

【結論】
 バーモント州法§2606(b)(1)は憲法に違反しない。
 連邦最高裁は、「リベンジポルノ」を言論の自由の保護の例外に当たる既存又は新規のカテゴリーとしては認めないと考えられる。他方、連邦最高裁が示す厳格審査に基づいて検討した場合、バーモント州法は憲法違反に当たらないと考えられる。

【理由付け】
A. 言論の自由の保護から除外されるカテゴリーかどうか
⑴わいせつ物(obscenity)
 連邦最高裁の重要な先例であるミラー対カリフォルニア州判決(Miller v. California (413 U.S. 15(1973))は、「(わいせつ物の)拡散の方法が、望まない受信者の感性を傷つける、又は青少年にさらされる重大な危険を伴う場合、わいせつ物の拡散または陳列を禁止する正当な利益がある」と判示し、わいせつ物は言論の自由の保護から除外されるとした。つまるところ、表現の「受け手」を保護するために、わいせつ物を言論の自由の保護の例外とした。
 他方、今回のリベンジポルノ処罰法は、受け手の保護を目的として制定された条文ではなく、合意なく自らの画像を公衆に晒されることとなる被害者のプライバシーや安全、尊厳を保護することが目的である。
 よって、従来のわいせつ物を言論の自由から除外する理論は、リベンジポルノについては当てはまらないと考えられる。

⑵プライバシーの侵害等
 以下の二つの理由から、連邦最高裁はリベンジポルノを表現の自由の保護の例外に当たる新たなカテゴリーとは判示しないと予想する。
 第一に、近年の連邦最高裁は、言論の自由の例外として新しいカテゴリを増やすことを何度も拒んできた。例えば、動物虐待表現、青少年に売られる暴力的なビデオゲーム、虚偽の陳述を言論の自由の保護の例外的カテゴリーとすることはいずれも否定されている。
 第二に、言論の自由に関連する個人のプライバシーを保護する州規制を扱う広範な規則を採用することに何度も難色を示してきた。連邦最高裁は一貫してプライバシーを言論の自由の例外にするかどうかの広範な宣言を避け、問題を狭く定義して個々の事件を裁定している。
 以上の理由から、連邦最高裁は、リベンジポルノを新たな言論の自由が除外される新たなカテゴリーとしては認めないだろうとバーモント州最高裁は予想する。

B. 厳格審査
⑴州法が保護しようとしているのはやむに已まれぬ利益(compelling interest)か
 バーモント最高裁は、①純粋に私的な事柄(purely private matter)は、公的な事柄と比較して、言論の憲法上の重要性が低く、広範な制限が可能であると米国最高裁がこれまで判示してきたこと、②私的なポルノ画像の合意なき公開によって個人に深刻な損害が生じる可能性があること、③健康情報や金融情報等の機密な関係から得られた情報(obtained in the context of a confidential relationship)を保護することは、議論の余地がなく憲法修正第1条に完全に合致すると考えられており、機密な関係から得られた裸や性行為の画像も同様に保護すべきことに基づき、リベンジポルノに係る州法の目的は真に必要なものだと示す。
 
⑵州法の規制手段は狭く策定されたもの(narrowly tailored)か
 バーモント州最高裁は、以下の点から、州法の規制手段は十分に狭いものであるとする。
 ①禁止される画像の範囲は詳細に定義しており、また、「本人の同意なしに…危害を加える…意図で、故意に開示する」場合のみ犯罪化されていること等から、同法は十分厳格に規制対象を限定していること
 ②開示が通常人に損害を与えることという客観的要件が付与されており、過度に曖昧な感覚(overly fragile sensibilities)を保護するためのものではないこと
 ③§2606(d)(2),(3)において、より高い憲法上の保護を保証する画像については明示的に除外していること。(注:§2606(d):この条文は以下について適用されない。…(2)違法行為の報告、法執行、犯罪報告、矯正、法的手続き、または医療に関する合法的かつ一般的な慣行を含む公共の利益のために行われる開示。(3)公共の関心事に該当する資料の開示。…)
 ④§2606(d)(1)はプライベートな場合でない場合を適用除外としているところ、州法は、開示することがプライバシーの合理的期待を侵害する画像のみに限定していること。(注:S2606(d) :この条文は以下について適用されない。(1)公共または商業の場、又は人がプライバシーを合理的に期待できない場所での自発的なヌードまたは性行為を含む画像。…)

以上の理由から、目的を達成するために必要な以上に言論の制限を課しておらず、また、公共の関心に当たる言論を制限する危険を伴わないものであるところ、州法は真に必要な目的のもと狭い範囲で制限を課しているといえることから、同法は憲法に違反しないと考える。

(なお、訴訟の勝敗としては、被害者は自ら恋人でもない知人男性に自分の裸の画像を送っていることから、「プライバシーに対する相当な期待(a reasonable expectation of privacy)」が被害者にあったとする証拠を州側が提出できていないとして、州側を敗訴とした原審の判決を肯定した。)

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 感想としては、憲法論はさておき、まず結論においてマジ!?!?という感じです。恋人ではなく、privacyの保護が期待できるほどintimateではないからそれを公開しても無罪…ってコト!?いや〜直感に反しますね。
 被害者と画像の受領者の関係性の深さからプライバシーの期待を検討し、リベンジポルノに該当するかを判断するという枠組みには反対です。これが自ら公開掲示板に画像をアップロードしたのならさておき、本件では、メッセンジャーという一対一の個人間の連絡手段で画像を送信しており(今回は第三者が見ていましたが)、そこで送った写真(特にポルノ画像)は公開されないことが当然に期待されると個人的には思うのですが…。
 あとは、現実問題として、intimateではない人間に自己の裸の画像を送ってしまう事案は多くあります。特に被害者が若い人で、相手の気を引きたかったり、その後公開されるリスクについて想定できなかったり、グルーミングによってやや騙されてよく知らない人に送信してしまうということはよく聞きます。そうして一度流出した画像が公開されることを防ぐことがまさにリベンジポルノ処罰法が禁止しようとしていることなのではないかと考えると、政策目的の達成も失敗となります。(立法が悪いんだ!ということ?)

 合憲性の判断については、まるでお手本のような判決!といった感想です。学部一年目の憲法の授業で聞きたい感じ。
 厳格性審査のあてはめについては、何個か疑問点もあります。たとえば「開示が通常人に損害を与えること」がnarrowly tailoredの判断要素となっていますが、これはどうなんでしょう。通常人(reasonable person)、よく出てきますが、リベンジポルノに係る通常人ってどんな人なんですかね。私は自分の水着の写真すら公開されるのは嫌ですけどね。

 とはいえ、アメリカのリベンジポルノ法の合憲性判断についての紹介でした。連邦法ない分野はいちいち州法を調べないといけないので比較が面倒ですね…。


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