2番「マグカップ取ってとれる」(晴れ月曜日午前)

 朝。

 小鳥が一羽、チュンチュンとそのくちばしでなにかをついばむようにフェリシーの庭に入ってくる。

 今日も平和な陽気だ。

 こういう日はお庭に出て、小鳥さんといっしょにひなたぼっこでもしたいものだ。

 と、まったりしていられれば良いのだが。。

 なにぶんフェリシーの週末を迎えた明くる日の月曜日の朝は、仕事が多いのである。

 土日ともなると、お客様の人数も多いことながら、メイドサイドの人数も多い。

 そうすると必然的に、施術に使用されるタオルの数や、ティーカップ、水分補給用のマグカップ、それにお客様からの大量のお土産などなど。

 洗い場や洗濯機周りが洗い物でいっぱいになる。

 そうなると、土日だけではたりず、月曜日メンバーにしわ寄せがくる。

 そして、先輩たちが洗濯物たたみをしている間に私は給湯室の洗い場でカップや食器を洗っていた。

 待合室から先輩たちの談笑が聞こえてくる。

 スポンジに洗剤の液体をたらし、コップの底をスポンジでゴシゴシしていく。

アカリ「ふぅ。一通り洗い物はおわったかな」

 洗ったティーカップやマグカップを一つ一つ拭いて、棚に戻していく。

 ・・・おわった。

 すこし給湯室でひとやすみ。

 足が立っててつかれたので膝を曲げて下を見る。

 すると

アカリ「あれ。なにかある」

 部屋のすみの方に誰からも見られることがなく、一つのマグカップが置かれていた。

アカリ「なんで、あんなところに?」

 なにかを封印しているのか、魔よけなのかなんなのか。恐る恐るそのマグカップに手を触れる。

 なにも起こらない。

 はて。

 と思い、マグカップを手にとってみた瞬間

 ポロッ。

 マグカップの取ってがとれた。

アカリ「ふぇ!?」

 と、そこに

もこ「アカリちゃーん。そっちはもう終わった??」

 待合室での作業が終わったのかもこさんが様子を見に来た。

アカリ「もこさぁぁーん」

 私はもこさんに泣きついた。

もこ「うんうん。どうしたのどうしたの」

アカリ「実はマグカップを壊しちゃったみたいで・・・」

 私は申し訳なさでいっぱいで不安そうな顔をしていた。

もこ「え、どれどれ見して」

アカリ「これです」

もこ「これってアカリちゃんが壊したの?」

アカリ「・・・」

もこ「あ、ごめんごめん。責めてないから。何があったの?」

アカリ「床の隅の方にそのマグカップがあって、拾い上げたらポロッって」

もこ「んーーーーアカリちゃんは拾い上げようとしただけなんだよね?」

アカリ「・・・はい」

もこ「ちょっと全体LINEできいてみよっか。待ってて」

アカリ「え、ちょ・・・」

 一瞬にして不安で顔が余計に沈む。怒られてしまうのだろうか。不安だ。なにやってるんだろう

もこ「・・・。うん」

アカリ「・・・」

もこ「連絡きたきた。うん、アカリちゃん大丈夫だよ」

アカリ「え・・・」

もこ「そのマグカップは資源ごみとして出すために隅っこに置いてあったんだって。あとで資源ごみ用に出そうとしてたんだけど、忘れてたみたいだね」

アカリ「ってことは・・・?」

もこ「アカリちゃんのせいじゃない。元々から壊れてた」

アカリ「ふぇぇぇん」

もこ「よしよし。アカリちゃんに大事なくて良かった良かった」

 もこさんはいついかなる時も冷静沈着で優しい。良き先輩たちに恵まれて本当によかった。

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