署名を始めた人に聞いてみよう。声をあげた瞬間のこと。 [プライド月間編🌈 NPO法人POSSE 佐藤学さん]
ーーお名前と立ち上げたキャンペーン名を教えてください。
NPO法人POSSEのメンバーの佐藤学です。立ち上げたキャンペーンは「履歴書から性別欄をなくそう #なんであるの 」です。
ーーNPO法人POSSEさんはどのような団体か教えていただけますか?
NPO法人POSSEは2006年に若者によって立ち上げられた、若者の労働問題や貧困問題に取り組んでいるNPOです。具体的には労働相談を実際に受けており、その数は平均で年間2000から3000件くらいです。現場の問題を解決しつつその背景について調査・分析し、社会的な発信や政策提言など、現場から社会へと、一連の取り組みを通して活動しています。(NPO法人POSSEウェブサイト)
ーーこの問題をよく知らない人のために、どういった内容なのかご説明をお願いします。
日本の履歴書というのは非常に差別的で、海外だと性別欄に限らず、年齢を尋ねたり写真を求めるなど、個人の属性を問うことはさまざまな差別につながるためありません。しかし日本にはあります。その中でも、私たちは特に性別欄をなくすキャンペーンを行いました。なぜかというと、日本でも現に男女雇用機会均等法で性別によって採用を左右することは禁止されているにも関わらず、現実にはそういった差別が存在しています。それは特にトランスジェンダーでいえば、半強制的にカミングアウトを強いられることにも繋がり、また社内でその情報がどのように扱われているのかが不明瞭な場合は、事実上のアウティング行為が広がってしまう懸念もあるためです。そういった問題に苦しむ当事者と繋がり、このキャンペーンをスタートしようと思いました。加えて、これはジェンダーの問題とも密接に絡んでいて、トランスジェンダーの方々だけでなく女性に対する就職差別も性別欄によって生じることがあるため、そういった性差別全体を改善する取り組みとしてスタートしました。
署名活動に参加することで、この問題を自分ごととして理解し、実際に行動していくことが可能になると思った
ーーこの件も、もともとは年間2000から3000件の相談事例のうちのひとつだったんですか?
そうですね。この問題に関しての相談があったのは大きなきっかけのひとつでした。同時に、当事者と共に戦う中で、私たちの中でもさまざまな学習を深めていき、性的少数者の中で多くの社会問題が生じているということがわかり、当事者と議論を進める中で、差別をなくすキャンペーンとして立ち上げようという話になりました。
ーー声をあげたり、問題を提起する手段は他にもありますが、オンライン署名を選んだ理由は何ですか?
まずは、社会的なキャンペーンとして効果があると感じました。Change.orgというプラットフォーム自体が社会的な影響がある団体だとも思っていましたし、多くの人にその問題を知ってもらえると感じました。
また、署名活動に広く参加してもらうことでただ情報を受け取るだけではなく、人々が自ら社会課題解決のためのアクションに積極的に参加していく、この問題を自分ごととして理解し、社会問題を認識し、実際に行動していくことが可能になると感じました。
ーー立ち上げる前はどんな気持ちでしたか?何か不安や、心配なことはありましたか?
心配や不安な点というよりは、差別を無くしていくために積極的なアクションを起こしていくということに対して、ポジティブな考えを持っていました。LGBTQの問題だけでなく、この社会には多くの差別が蔓延していると思うので、誰もが生きやすく差別のない社会を作っていくというところに希望を感じました。また、キャンペーンを通じて一緒に活動する仲間が増えて、社会を変えていけるんじゃないかというところに、非常に前向きな気持ちも持っていましたね。
不安を感じた時も、実際に状況を変えていっている世界のLGBTQに関する運動を勉強したり、SNS上で同じ気持ちを持つ人たちと交流する中で、諦めずに続けていれば道は開けると信じて、進めていました。
社会は変えていけるんだという道筋をチェンジ・ドット・オーグと一緒に提示できた
ーーLGBTに関するトピックは、社会的な抑圧や、心ないバッシングを受ける対象になることがあります。活動に疲れた時に佐藤さんがリフレッシュするために行っていることはありますか?
本を読むことが好きなので、本をよく読みます。あとはドキュメンタリーを見たり、LGBTQに限らず、レイシズムやジェンダーなどいろいろな差別と戦って状況を変えていっている具体的な事例を見ることで、前向きになるというか、環境を変えていくようなイメージを持ち続けていったということは、ある種リフレッシュになっていたかもしれません。(佐藤さんおすすめの本・映画は、インタビューの最後にご紹介しています。)
ーーネガティブな声が耳に入らないようにする、情報を入れないようにする、という方もいらっしゃいますが、佐藤さんはさらに知識を蓄えることでそれを活動のエネルギーにされていたのですね!
そうですね。やはりPOSSEの中で同じような方向を向いている仲間がたくさんいて、そこで刺激しあって進められていたことも大きいと思います。学生や若者のメンバーがいたり、貧困やブラック企業はもちろん外国人労働者など社会問題についてみんなで学んで変えていける。そんな仲間がいたことは大きいです。個人だと行き詰まっていたと思いますが、やはり仲間の存在は大きいですね。
ーー声をあげたことによって、自分の中や身の回りで「変わった」と思えることはありますか?もしあれば、それは何ですか?
例えば履歴書問題を皮切りに「なんで性別欄があるの?」というところから、トランスジェンダー当事者やジェンダーに関心を持つ仲間やボランティアなど、自分もメンバーとして参加したいという人との出会いがありました。問題を可視化する中で、そういった問題が日本社会全体に広がっていき、社会は変えていけるんだという道筋をチェンジ・ドット・オーグと一緒に提示できたことで、結果的にボランティアとして参加したいというメンバーがいたことに繋がったのは一つの変化だと思います。
性別を問うことそれ自体が差別的なのだということを社会的なスタンダードに
ーーこちらのキャンペーンに関して、今後のご予定や目標があれば、教えてください。
JIS企画の履歴書から性別欄がなくなったことや履歴書の最大手コクヨが性別欄のない履歴書を販売したこと、また、今年の4月に厚生労働省が日本で初めてJIS規格に代わる国としてオフィシャルな履歴書例を出し、それまで必須だった性別欄が任意という形に変わったことは大きな前進であると言えると思います。(詳細はこちら)
ただ、海外では基本的に性別を問われること自体がないのに比べると、やはり、原則として問われないということ、また実際になくしていけるようにこれからも働きかけていきたいと思います。企業に対して、性別を問うことそれ自体が差別的なのだということが社会的なスタンダードになるところまで持っていきたいと思いますね。
他のキャンペーンで言いますと、今後は、企業単位で今後どういう履歴書を使っていくかということがポイントになると思っています。現在大学内で販売されている履歴書のチェックをしようと考えていまして、これから就労する大学生のために、そういった履歴書自体を使わないように大学に働きかけを行っていきたいとも考えています。
また、経団連などの使用者団体やLGBTQフレンドリーと謳っている大企業を中心に、性別欄のない履歴書を使うような申し入れや質問状を出していくキャンペーンも考えています。
ーーLGBTをめぐっては未だに偏見や、通常の社会のシステムに組み込まれない事柄など、課題が多く残っています。当事者として今傷ついていたり心を痛めている人に向けて、メッセージがあればお願いします。
さまざまな差別発言を未だに耳にすることもあり、悩まれている方もたくさんいると思います。私は、実際にそれを変えるという道も当然あるんだということを伝えたいと思っています。こうしてキャンペーンをすることで、私たちの場合は「任意になった」という形であはありますが、これまで必須とされていた性別欄がそうでなくなった。そういう変化というものが、仲間と声を上げていく中で、実際に変えていくという結果につながることもあります。差別に悩むことは当然だと思うんですが、実際に声をあげて変えていくのだということを知ってもらえれば嬉しいと思います。それこそ私たちのような団体に参加して、皆でアクションを起こしていければと嬉しいですね。
差別のない社会になっていくといいなじゃなくて、自分がしていきたい
ーー佐藤さんご自身が、こういった差別問題や労働問題に関心を持ったきっかけはなんだったんですか?
私がもともと労働問題に関わるきっかけになったのは20008年のリーマンショックの時でした。当時私は学生だったのですが、その時に世間ではいわゆる「派遣切り」で仕事を失う人が多くおられました。その頃は「派遣社員という道を選んだ自分が悪い」「そういう仕事しかできない自分が悪い」などといったいわゆる自己責任論といわれるような言説がありました。実際に派遣村に出向いて色々な社会構造を理解していく中で、社会的に差別を受けている人びとのバックグラウンドを考えれば、これは社会的な構造が原因であり、世の中の言説が真実ではないのだということを知りました。POSSEに入り、さまざまな差別問題の存在だけでなく、現場を見ることの大切さを知りました。ちょうど私も就活生だったんですが、自分だけ正社員になって、かたや職場で期間的な業務をしながら景気に左右され、本人の責任ではないところで職を失い、ホームレスになり、それすらもバッシングされて・・という構造を目にしました。それは社会構造的におかしいと思うようになったのがきっかけです。
ーーキャンペーンを立ち上げる前の『まだ声をあげることができなかった自分』『声をあげることで物事を変えられることを知らなかった自分』に声をかけられるとしたら、どんなことを伝えたいですか?
声をあげた経験がなかったときの自分というと、大学一年生くらいになると思います。当時の私は、社会問題にそこまで関心が向いていなかったので、自分のことを中心に物事を考えていたと思いますね。
現場で起きていることを見たり、実際に当事者と関わる中で、いろいろな社会構造や社会問題がわかってきます。おかしいことを感じたら、実際に現場に行ってみて、現実を知り、それを通じで自分で勉強し、なぜそんな問題が起こっているのかを把握し、問題意識を共有した仲間がいれば一緒に変えていける。見て見ぬフリや「自分だけ良ければいいや」じゃなくて、この社会に自分がどう関わるのかを真剣に考えた方がいいよと言いたいですね(笑)また、世界での社会運動を学んだりすると、日本だけでは想像できないようなさまざまなムーブメントがあるので、視野を広げて、日本の現状を変えていくイメージを持つ、そんなことに目を向けて欲しいと言いたいですね。
ーー最後に、佐藤さんは、これから日本もしくは世界がどんな社会になっていくといいなと思いますか?
外国人、LGBTQ、ジェンダーなど、マイノリティに対する差別が特に日本では強いと思います。繰り返しになりますが、ちゃんと問題の構造を勉強することで、それは変えていけると思います。差別のない社会になっていくといいなじゃなくて、していきたいなと。積極的に自分も関わって、変えていきたいという思いが強いです。
厚生労働省に写真欄や年齢欄を無くしたいと声をあげたキャンペーンの発信者さんとも連携をしていますが、日本は個人的な属性によって何者であるかを問う傾向が強く、それが差別につながる事例が多く存在します。性別欄だけでなく、写真欄や年齢欄も含めて、履歴書が一つの日本社会の差別性を問題提起するキャンペーンだと思いますので、これからも改善に向けて働きかけていくことが大切だと思っています。
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