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ラブソングを聴く理由:04


好きになれば、進めばいいのだと思っていた。

その気持ちを信じて、振り向いてもらえるまで、がむしゃらに突き進む。

少なくとも、私のことを好きでいてくれたかつての恋人たちはそうだったし、本や映画で見た主人公たちにそれ以外の選択肢はなかったように思う。


あの日、電話を切り終えて、彼女は朝が早いからもう寝るらしいと笑った彼の横顔が、それはそれは柔らかくて、泣きたくなった。

ふたりきりでいるのに。

どうしようもなく届かない壁が、見えないのに絶対そこにあって、悲しかった。

「私はめっちゃ夜更かし!」

何の対抗心だか、そう言った私も虚しくて、あの日のことはもう忘れたい。


この恋は、進めてはいけない。

あれほど擦り込んだ映画も漫画も、前に進めない方法なんて教えてはくれなかったけれど。

帰り道、切ないラブソングなんか聴きながら、日差しのせいではない暑さを身体に受け止める。消えゆくビルのライトと一緒に、口の中の飴も溶けてしまった。


この人が、よかった。

他の人なんてどうでもよくって、あれほどかっこいいと騒いでいた人も、今では目に入らない。

夜ベッドに入ってしまうと、彼のことばかり考えてしまって眠れなくなる。

youtubeで動画を見漁り、目を疲れさせて強制的にフェードアウトする毎晩に、ため息ばかりが、落ちていった。



AM2:00。

暗闇で青光る携帯の画面を見ながら、ああもうこんな時間か、なんて目をこする。

慣れたルーティンが壊されるのはその数秒後。

着信:***

突如として現れた画面いっぱいの彼の名前に、心臓が飛び出した。

意味、わかんないんだけど。

「もしもし!?」

「ああもしもし?起きてそうだなと思ってかけてみた。夜更かしって言ってたから」

そう言って電話越し、くだけた声して彼は笑う。

なんて罪な一言だろう。私の忘れたかった言葉を覚えていたどころか、きっかけにしてくれた。

他愛もない話をして切れたその電話は、なんの用だったのか本当にわからなかったけれど、私の恋心を燃え上がらせるのには充分すぎるもので。

まさかその日から、平日は2日に1回のペースで、電話がかかってくるようになるなんて、その夜は知る由もない。




今だったら、恋人のいる人が、夜中に女友達に電話をかけてくるのはおかしいって、ちゃんと思う。

その電話を取るより、17歳の頃みたいに無理にでも相手を好きになるほうがまだマシだって、

今なら肩を叩ける。


でも、あの夏、

初めて落ちた甘い恋の誘惑に、どんどん嵌っていく私を、誰が引き止められただろうか。

我慢も、駆け引きも、覚えるべき時に覚えられなかった私の、向こう見ずな恋はきっと誰にも止められなかった。


そう、思いたい。




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次に続く










音楽活動の足しになります、執筆活動の気合いになります、よかったら…!