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ラブソングを聴く理由:05


今日は金曜日だから。

24時を過ぎれば、彼からの連絡はない。


初めて電話を受けてから、3ヶ月。

1つ上の彼女は、きたる社会人生活に向け、平日はインターンで働き始めたらしい。

その頃にはもう、ふたりで出かけることに躊躇などなくなっていた。

むしろ平日の夜は、当たり前のように電話がかかってきて、酔っ払う彼のよくわからない言葉を聞き流すのが日課で。

たまに誘われる夜ご飯に緊張もなく付いていっては、手を繋いで駅まで帰る。それでもバイト先では仲のいい同級生を演じきり、親友にも誰にも、このことは言わない。


一線を越えるより、タチの悪いことをしているのには気付いていた。



酔っ払えば、好きだとか会いたいだとか、簡単に口にする彼を、笑ってごまかす。私が同じ言葉を放てば、きっと冷たくするくせに。

私が言いたくてたまらない言葉を、お酒の勢いで言ってしまえる彼が、どうしようもなく嫌いで、大好きだった。


縋らない。

都合の良い女へと進む王道レールを歩みながら、唯一私が私に誓ったこと。

別れて欲しい、なんて絶対言わない。

自分から誘わない、電話はかけない、好きとは言わない。彼の前では、絶対泣かない。

とっくに依存していることは自覚しながら、それでもプライドのまったくない女にはなってやるもんかと、微かに残った理性で戦っていた。と思っていた気がする。



土日は彼女とデートだから。

連絡しない、会いたくなったりしない。

どうにか自分を正当化するために、週末は自分に言い聞かせ、どれだけ話したいことがあっても、絶対にメッセージは送らないと決めた。

次第に、大学のない土日はフルで8時間シフトを入れ、夜は出来る限り友達と約束を入れるようになる。


不毛だよ、それ。


心の中の私が囁く。

平日5日一緒に入れても、たった2日しかない週末を占める彼女には敵わない。そもそも、恋愛は勝ち負けじゃないし、誰かと競おうとした時点で報われないんだよ。

悪いこと、してる。

すっかり風が吹いて、秋の匂いの中、夏の暑さを忘れられない私だけが取り残されるのを感じていた。

彼に会った日だけ、洋服から香るジョーマローンの銘柄を、とっくに知っているくせに買わない理由なんて、彼以外誰も知らなくていい。

そんなことを思った。




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次に続く

(延長説






















音楽活動の足しになります、執筆活動の気合いになります、よかったら…!