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ラブソングを聴く理由:07



「戻っておいで。」
知らないふりを決め込んでくれた親友に、そっと諭される。


普段は出来るだけ家にいたい私が、毎日呼び出されてもいいように支度をして待っていること。身長の高い彼に少しでも近付きたくて、無理してヒールを履いていること。平日の夜に予定を入れなくなったこと。

これ以上積み重ねたら私が私でなくなる気がした。

貴方の前では、嘘しかつけない。


初めて手を繋いだ日、気付いていたことだった。全身から溢れる好きを見ないふりする彼と同じように、私もまた、彼の言葉に織り込まれた冷たさを見ないふりしていた。

見ないふり、気づかないふり、知らないふり。

空いてない予定をこじ開ける時、重い女だと思われたくなくて、付き合うことに興味ないよと笑う時。週末のデート楽しんでね、なんて馬鹿なことを言ってしまう時。

全て嘘で、全て強がりで。

数え切れないほど言った大丈夫も、一度だって大丈夫だったことはなかった。


「恋は、幸せを探すためにあるんだよ」

報われても、報われなくても、その過程に、その先に、幸せがちりばめられているものなんだよ。
その恋は、いつか幸せになれる?
親友の声が、響く。


限界だった。

私は私でいるために、ちゃんと終わりにしないといけない。

俺のこと本当に好きなの?
17の時あれほど苦手だった眼差しで、呆れるくらいしつこく、聞いて欲しかった。
考えてみたら、私はあの時の彼で、彼はあの時の私、だったのかもしれない。

丁度いいときに好意を示してきてくれたから、とりあえず近くに置いておく。
その程度の関係だったと思う。


本当は、ずっと前から、知っている。
この恋の終わらせ方は、大層なラブレターを書くことでも、泣きながら会いに行くことでもない。

ただ、連絡を取らない。本当にそれだけ。


そうすればいつの間にか、どうでもいいことで笑って、期末試験辛いねなんて話して、肩さえ触れない友達に戻る。

現実には、誰かの死とか、彼女にめちゃくちゃに嫌がらせされるとか、そんな別れのきっかけになるような大きな事件は起こってはくれない。ただ、別れの後にも先にも、いつもと変わらない日常があるだけだ。


そんなことを、誰に話すでもないのに考えて、

目を、瞑る。



その日、

私は初めて、彼からの電話を取らずに眠った。




振り返れば、大喧嘩でもして涙でも流せたらどんなに楽に忘れられただろう、と思う。
でもきっと都合のいい関係において、大それたお別れの仕方などなくて、いつの間にか終わっているくらいがちょうどいい。
これまでの日常から、ただ彼が消えるだけ。私の場合は、ただ「なかったこと」になっただけ。

それでも、終わりを気にして、相手を信じることすらできなかったあの頃の私からは、成長したと言えるだろうか。

あれほど憧れた身を焦がすほどの恋が、ひどく唐突で、こんなにあっけないものだとは。

未練とか、後悔とか、謝罪とか、語ることは簡単だけれど、後は私だけが知っていればいい。


思い出せば、甘く、苦く、痛いくらいの感情を知った私のどうしようもない初恋は、共に駆け抜けたラブソングと一緒に取っておく。


それくらい、いいよね。



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「ラブソングを聴く理由」配信リリース・サブスク解禁しました。
この物語と照らし合わせても、自分の恋に想いを馳せても。
ぜひ聴いてみてください。
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さて。

散々振り返った初恋を胸に、今の話でも、しようか。


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「夜を立つ」に続く。


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