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ない夢 5/27の日記

前職で一番お世話になった先輩が転職するらしく、私の同期とその先輩でごはんに行った。

1つ年上のその先輩は人間を100パターンに分類しても私と同じ区分に入るだろうというぐらい雰囲気や考え方が私と似ていて、新卒で入社して以来何から何まで教えてもらった偉大な存在だった。
人にあまり干渉しないというところまで私に似ているから、私が2022年末に会社を辞めてから連絡すら一度もとっていなかった。
私としても、お世話になった割に逃げるようにサッと辞めてしまったから心のどこかに罪悪感が残っていた。

ド平日、月曜日の仕事終わりに渋谷の居酒屋に集合した。
先輩に会うのは2年半ぶりだったが、ゆったりした雰囲気はまったく変わっていなくてすぐに先輩だと気づいた。
同期とも合流し、渋谷の騒がしい居酒屋でビールを突き合わせた。

私と先輩がかつて働いていたのはエンタメ系の小さな会社で、小さな割には結構有名なアーティストのライブや有名な劇団の公演も扱っていた。
一般的な企業より楽しいことが多い反面、不規則な労働や問題のある上司が多く、「ずっとここで働くのか」と疑問を感じることが増え、私はIT企業に転職した。
先輩の転職先を聞くと、誰もが知っている大手音楽事務所だった。「えぇすごい!」とお世辞でもなく漏れてしまう。

他にも私の知っている人たちがどんどん転職しているらしく、有名な会社の名前がどんどん繰り出された。
あの人があの会社に?!の連続で驚かされる。
そのほとんどはエンタメ系の会社で、やはり自分の経験や好きを追求した結果なのだろうと感じる。
先輩に私がエンジニアであることを話すと「エンタメ系は受けなかったの?」と聞かれた。まったく受けなかったし考えもしていなかった。

前職での色んな出来事や先輩の転職先の話を聞くと、やっぱりめちゃくちゃ楽しそうだなと思ってしまって複雑な気持ちになった。
2年前に安易に安定を求めた私は、大きな辛さも大きな楽しさもない環境に身を置いてしまったように感じている。
そりゃ土日もGWもガッツリ休めてそれに見合う程度のお金がもらえるのは嬉しいけど、前職で音楽の話をしたり実際にライブ現場に入ったりした時の胸の高鳴りは今の会社では絶対に得られない。

かと言って先輩のように大手音楽事務所で働きたいかと言われると、素直に首を縦に触れない自分がいる。
楽しそう、でも大変そうと子ども同然のわがままな難癖をつけて前に進めない自分がいる。
その原因は仕事における夢がないということだと思う。仕事以外の時間を日々幸せに過ごせればそれでいいとずっと考えていて、〇〇になりたいとか〇〇を世に広めたいとかそういう志は正直一切ない。

「永村くんが辞めたとき僕のせいなのかなってちょっと思っちゃったよ」と先輩が言っていた。
200%そんなことはない。むしろヌルッと辞めて申し訳ないです、と伝えた。
先輩のおかげで色んな公演に携われたし、大きなミスはほとんどなかった。2人で担当した難しい公演もどうにか乗り切った。
でも夢を見つけられなかった。

複雑な感情になりながらも居酒屋での話はずっと楽しくて、いつの間にか終電間際まで3時間以上しゃべっていた。
あの人の近況やあの人の愚痴、あの人の思い出をたくさん共有できてバカ笑いする時間もたくさんあった。
境遇は違えど、また絶対に集まりたいと思った。
店を出て渋谷駅のそれぞれの改札へ向かって別れる。「じゃ、また」という先輩のあっさりしたところも私そっくりだった。

しゃべってばかりであまり食べ物を食べられなかったから近所のラーメン屋に寄った。
「オオモリムリョウダケド?」と乱暴に聞かれ思わず大盛りにしてしまった。
店じまいをしながら片手間で作られた大盛りラーメンの麺はほぐしきれていない塊が多くて、めちゃくちゃハズレの店だった。黄色い餅のようになった麺をどうにか平らげて店を出る。

ハズレだったなーと思いながらも、心が揺らいだ感覚があった。
仕事でも日々の生活でも、少しの刺激が必要だと感じた。

脳内の引き出しが足りないので外付け脳みそとして活用しています。