アイドルという呪い

アイドルになりたかった。
いや、なりたい。
いや、もうわからない。

初めてアイドルに憧れたのは小学校低学年のとき。私は他の女の子と同じように、当時流行りに流行っていたモーニング娘。に夢中になっていた。小学校一年生のとき、テレビで歌うモー娘。と一緒になって歌い踊り、テロップの漢字が読めることを褒められた。そんな記憶がある。

週末は近所のおもちゃ屋さんに行き、黒い袋に入れられたブロマイドを買った。
ある日の休み時間、クラスメイトに「そんなに好きならオーディション受ければ?」と言われた。私は急に恥ずかしくなり、「受けないよそんなの」と、確かそんなことを言ったと思う。今になって、その受け答えが私そのものを表していたなと思う。

その後私は中学に上がり、アイドル=ぶりっ子という価値観の中に身を置くことになる。できたばかりのAKB48を茶化して踊ることもあった。ぶりっ子を馬鹿にすることで成り立っていたような小さな社会の中で、少しでも可愛いを目指せば叩かれる。いじめられないように振る舞うことが最優先だった私は、どちらかというと可愛いを叩く側の人間だった。しかし可愛いものは可愛いのだ。その後はこの3年間への贖罪のように「可愛い」に取り憑かれることになる。

高校生になった。時代はAKB48全盛期。
劇場でこつこつ頑張る子を推しとして、周りの男子と一緒にオタク生活を送った。個別握手会にも行った。握手をしながら名前を呼ばれてはとろけそうになる、アイドル、恐るべし。

その頃初めてオーディションを受けた。AKB48の9期生のオーディションだったと思う。単純にアイドルになりたかった。歌って踊って笑顔を振り撒いて、見ているだけで元気をもらえる、ベタ中のベタだが、本当にアイドルになりたかった。結果は書類審査落ち。自己PRに作文並みの思いを書いたのがいけなかったのか、なんなのか。とにかく私はオーディションに落ちてしまった。

それから、自分の進路を真剣に考える時期がやってきた。本当にアイドルを目指すのか。その時一番なりたかったのはアイドルだったはずなのに、悩んだのはほんの一瞬だった。アイドルになりたいという気持ちは、安定しないから、今から始めるのには遅いから、その他どうでもいい理由たちを被せに被せて消し去った。つもりだった。

その進路選択から10年が経った今、私の中にあるものの形がようやく見えてきた。
これは、呪いだ。
アイドルになりたい。アイドルになれなかった。アイドルにならなかった。自分から避けた。地下アイドルになってみた。続かなかった。続けなかった。6歳の自分の中にあった大きくて純度の高い気持ちは、いつの間にか呪いとなって、私の心をやわらかく支配していた。

夢はたくさんあった。アイドル以外にも、漫画家になりたかったし、デザインの仕事もしたかった。共通していたのは表現するということ。見てほしかった、私を、私の中身を。

そして私は今、かつてアイドルオーディションだったミスiDにかろうじてしがみついている。
私は何になりたいんだろう。私はどうしたいんだろう。私は何になりたかったんだろう。私はどうして、ならなかったんだろう。
エントリーシートを見てもらえばわかるが、「活動を希望するジャンル」はアイドル、アーティスト、作家(小説、エッセイ)、詩人にチェックをつけた。ああ、当たり前のように付けてしまった。一番最初に表示される「アイドル」という文字。私は、私は。

私は来年で30歳になる。30歳という字面を見るたびに驚きを隠せないが、来年も生きる予定なので、この分だと30歳になる。アイドルとはなんだろう。私がなりたかったアイドルってなんだろう。
私は今、このアイドルという呪いと、一生付き合って生きていくんだと感じている。一度かかってしまえば、王子様のキスでもないと解けない呪い。これはおとぎ話ではないので、やはりこれは、解けない呪いだ。

私はいずれ、アイドルになるんだろうか。チャンスを自分からことごとく踏み潰してきた私が、その夢だか呪いだかを、叶える日が来るんだろうか。これは心地の良い呪い。酷く甘美な、抜け出せない呪い。

私はアイドルになりたかった。
いや、なりたい。
いや、もうわからない。

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