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じゃがの大冒険 3

第3章:竹林の里にて

じゃがが東へ向かって歩き始めてから数日が経ちました。ハムハム公国の柔らかな草原を抜け、未知の森を通り過ぎ、小さな丘を越えた先に、じゃがは一面に広がる竹林を目にしました。

「わあ...すごい」じゃがは息を呑みました。

青々とした竹が空高くそびえ立ち、風に揺られてサラサラと音を立てています。その音は、不思議と心地よく、じゃがの心を落ち着かせました。しかし同時に、この見慣れない景色に少し不安も感じます。

「大丈夫、僕は『和』を探しているんだ」じゃがは自分に言い聞かせるように呟きました。

竹林の中を進んでいくと、小さな集落が見えてきました。そこには、たくさんの小さな竹の家があり、ハムスターたちが忙しそうに行き来していました。家々の間には小川が流れ、水車がゆっくりと回っています。澄んだ水の音が、竹のざわめきに溶け込んでいました。

じゃがは胸の鼓動が早くなるのを感じました。ここで何か大切なものを見つけられるかもしれない...そんな予感がしたのです。

「こんにちは」じゃがは勇気を出して、近くを通りかかったハムスターに声をかけました。「ここはどこですか?」

「ここは竹林の里だよ」優しそうな顔をした年配のハムスターが答えました。「君は旅のハムスターかい?」

「はい」じゃがは頷きました。「僕の名前はじゃがです。実は...『和』というものを探しているんです」

老ハムスターの目が輝きました。「『和』を探している、と!それは興味深い。ちょうど良かった。今夜、私たちの里では『竹の調べ』という祭りがあるんだ。そこで何か感じるものがあるかもしれないね」

じゃがは喜んで招待を受け入れました。老ハムスターは、じゃがを村の中心にある大きな広場へと案内してくれました。そこでは、多くのハムスターたちが祭りの準備に忙しそうでした。

「ねえ、君」突然、若いハムスターの声がしました。「手伝ってくれない?」

振り返ると、じゃがと同じくらいの年齢のハムスターが、大きな竹を運ぼうとして苦戦していました。

「うん、いいよ」じゃがは即座に答え、竹を持つのを手伝いました。

「ありがとう!僕の名前はたけるっていうんだ。君は?」

「じゃがだよ。よろしくね、たける」

二人で竹を運びながら、たけるは里の様々なことをじゃがに教えてくれました。竹林の里では、竹を使って様々な道具や楽器を作ること、そして「竹の調べ」という祭りが里の伝統であることなどを。

「僕たちは、竹と共に生きているんだ」たけるは誇らしげに言いました。「竹は強くてしなやか。でも一本だけじゃ弱いんだ。たくさんの竹が一緒に生えることで、強い林になる。それって、私たちの暮らしにも通じるんだ」

じゃがはたけるの言葉に深く頷きました。何か大切なことを聞いたような気がしたのです。

日が沈み始めると、里のハムスターたちが次々と広場に集まってきました。中央には大きな竹筒が置かれています。

「あれは何ですか?」じゃがはたけるに尋ねました。

「あれは『竹琴』っていうんだ」たけるは答えました。「僕たちの里の宝物さ。この竹琴を使って、『竹の調べ』を奏でるんだ」

祭りが始まると、たけるを含む数匹のハムスターたちが竹琴の周りに集まりました。彼らは小さな棒を持ち、竹筒をトントンと叩き始めました。

するとそこから、じゃがが今まで聞いたこともないような美しい音色が響き渡りました。竹を叩く音、風の音、ハムスターたちの息遣い、それらが全て一つになって、不思議な調和を生み出していたのです。

じゃがは目を閉じて、その音に身を委ねました。すると、カップの中にいた時と同じような心地よさが全身を包み込みました。

「これが...『和』なのかな」じゃがは小さくつぶやきました。

音楽が終わると、里のハムスターたちは踊り始めました。じゃがも誘われて、輪の中に入りました。最初は戸惑いましたが、次第に体が自然と動き出します。他のハムスターたちと手をつなぎ、くるくると回る中で、じゃがは不思議な一体感を感じました。

踊りの後、じゃがはたけると話をする機会を得ました。

「たけるくん、あの演奏はとても素晴らしかったよ」じゃがは興奮気味に言いました。「どうやってあんな素敵な音を出すの?」

たけるは少し照れくさそうに笑いました。「ありがとう。実は、音を出すコツがあるんだ。一人一人が自分の音を主張するんじゃなくて、他の人の音をよく聴いて、全体の調和を感じながら演奏するんだ。そうすることで、一つの大きな音楽になるんだよ」

じゃがは深く頷きました。たけるの言葉に、何か大切なヒントが隠されているような気がしました。

「それって...『和』に通じるのかな」じゃがは思わず口に出しました。

たけるは少し驚いた表情を見せました。「『和』?それって何?」

じゃがは少し躊躇いましたが、自分の旅の目的をたけるに話すことにしました。HCCのことは秘密にしましたが、「和」を探す旅をしていることは伝えました。

たけるは興味深そうに聞いていました。「へぇ、『和』か。面白いね。でも、さっき言ってた通り、僕たちの音楽も一種の『和』なのかもしれないね。みんなで合わせることで、一つの美しいものが生まれる。それって『和』って言えるんじゃない?」

じゃがは目を輝かせました。「そうか!たけるくん、ありがとう。何か大切なことに気づいた気がするよ」

その夜、じゃがは竹林の里で一泊させてもらいました。小さな竹の家の中で、柔らかな藁の寝床に横たわりながら、じゃがは今日の出来事を振り返っていました。

竹琴の音色、みんなで踊った時の一体感、たけるの言葉...全てが「和」につながっているような気がしました。それは、一人一人が自分の個性を保ちながらも、全体としての調和を作り出すこと。そんな意味があるのかもしれない、とじゃがは考えました。

翌朝、じゃがは旅立ちの準備をしていました。すると、たけるが駆けつけてきました。

「じゃが、これを持っていってよ」たけるは小さな竹筒を差し出しました。「旅の途中で心が乱れたときは、これを鳴らしてみて。きっと『和』のヒントになるはずだよ」

じゃがは感謝の気持ちでいっぱいになりました。「ありがとう、たける。大切にするよ」

竹林の里を後にする時、じゃがは振り返って村全体を見渡しました。朝もやの中にたたずむ竹の家々、のどかに流れる小川、そして優しく揺れる竹林。全てが一つの絵のように調和していました。

「ここで見つけたものは、きっと大切な『和』の一部なんだ」じゃがは心の中で呟きました。

そして、不思議なことに、背中の6つの斑点が少しだけ温かくなるのを感じました。何かが変わり始めている...そんな予感がしたのです。

じゃがは深呼吸をして、再び東へと歩き始めました。新しい友人と素敵な思い出、そして小さな竹筒を手に、じゃがの旅は次の段階へと進んでいきます。

竹林の向こうには、どんな冒険が待っているのでしょうか。そして、「和」の真の姿とは...。じゃがの小さな背中には、まだまだたくさんの謎が隠されているようでした。

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