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HamCup 鬼の系譜 2

第二章 - 怒りと決意、そして変革

真夏の太陽が照りつける中、アユフマは肩を落として歩いていた。暴走族「鬼子母神」の二代目総長として、彼女の肩には重い責任が乗っかっていた。しかし、その重みは日に日に増していくばかりだった。

「くそっ...」アユフマは歯を食いしばった。

ケイとミオが高校に進学してから、鬼子母神は徐々に力を失っていった。かつて街を震撼させた暴走族は、今や影も形もない。メンバーは次々と抜けていき、残されたのはアユフマと数人の仲間だけだった。

そんなある日、アユフマの耳に驚くべき噂が入ってきた。

「おい、アユフマ。聞いたか?ケイとミオのこと」

元メンバーの一人が、息を切らせながら駆け寄ってきた。

「なんだよ?あいつらに何かあったのか?」アユフマは身を乗り出して聞いた。

「いや、そうじゃねえ。あいつら、今じゃ美術部に入って絵なんか描いてるらしいぜ。HamCupだか何だか知らねえが、そんなので楽しくやってるってよ」

その言葉に、アユフマは衝撃を受けた。かつての鬼子母神の殲滅鬼と呼ばれた二人が、今は絵を描いて楽しんでいる?信じられない思いだった。

「冗談じゃねえ!」アユフマは怒りに震えて叫んだ。「あいつらに絵なんて似合わねえ!」

アユフマの中で、怒りと共に決意が芽生えた。衰退している鬼子母神を再生して、あいつらと同じ高校に入って問い詰めてやる!そう心に誓ったのだ。

その日から、アユフマの生活は一変した。昼は猛勉強、夜は暴走族の総長として喧嘩に明け暮れる日々が始まった。

「ケイとミオの入れた学校なら、あたしだって軽く入れるはずだ」

そう思っていたアユフマだったが、現実は厳しかった。ケイとミオが入学した高校は、予想以上にレベルが高かったのだ。

「くそっ...こんなの聞いてねえぞ!」

最初の模擬テストの結果を見て、アユフマは愕然とした。しかし、ここで諦めるわけにはいかない。アユフマの必死の勉強が始まった。

毎日、放課後は図書館に籠もり、夜遅くまで勉強を続けた。そして夜になると、バイクに跨がり街を走り回る。そんなアユフマを慕ってついて来てくれる仲間も日に日に増えていった。

秋に差し掛かる頃には、毎日の猛勉強の甲斐もあり、成績も少しずつ上がっていった。アユフマの姿は、仲間たちの心に大きな影響を与えていた。

ある日、思いがけない相談が仲間たちから持ち掛けられた。

「総長....私たちも勉強したい。高校に行きたいんだ」

一人が勇気を出して言った。他のメンバーも頷いている。

「親や先生からはバカにされて、自分たちも知らず知らずのうちにそれを受け入れて来たけど、やっぱイヤなんだ。自分の未来を広げてぇんだ」

アユフマは黙って仲間たちの顔を見つめた。そして、ゆっくりと頷いた。

「よし、分かった」アユフマは力強く言った。「未来を自分の手で掴み取りてぇ奴は全員、放課後あたしのとこに来い!」

その日から、二代目鬼子母神は様変わりした。昼は必死に勉強し、夜は街を走る。彼女たちは「勉学の鬼」と呼ばれるようになった。

しかし、全てが順調だったわけではない。勉強に励むアユフマたちを、「裏切り者」と呼ぶ声も上がり始めた。

ある夜、アユフマたちが図書館から帰る途中、元メンバーたちに囲まれた。

「おい、アユフマ!あんた、なんでそんな偉そうな顔して歩いてんだよ!」

「そうよ!私たちを見捨てやがって!」

怒号が飛び交う中、アユフマは静かに前に出た。

「見捨てたんじゃねえ」アユフマは冷静に言った。「あんたらだって、本当は分かってるんだろ?このままじゃダメだって」

元メンバーたちの表情が僅かに揺らいだ。

「あんたらだって、夢があるんじゃねえのか?」アユフマは一人一人の顔を見つめながら言った。「ただ暴れてるだけで、それが叶うと思ってんのか?」

沈黙が流れる。

「あたしは、ケイとミオに追いつくために勉強してる」アユフマは続けた。「でも、それだけじゃない。自分の未来を、自分の手で掴みたいんだ。あんたらだって、同じじゃねえのか?」

元メンバーたちの目に、僅かな光が宿り始めた。

「でも...私たち、もう手遅れだわ...」一人が呟いた。

アユフマは力強く首を振った。「遅すぎるなんてことはねえ。今からでも遅くねえんだ。あんたらも、一緒に来いよ」

その言葉に、元メンバーたちの表情が変わり始めた。

「本当に...私たちでも、いいの?」

アユフマは笑顔で頷いた。「ああ、もちろんだ。みんなで、新しい鬼子母神を作ろうぜ」

その夜から、鬼子母神の新たな伝説が始まった。昼は必死に勉強し、夜は街を走る。しかし今度は、単なる暴走ではない。彼女たちは街の清掃活動を始めたり、地域の女の子たちのためのセルフディフェンス教室を開いたりするようになった。

アユフマは時にメンバーたちの動揺を抑えながら、自らの道を突き進んでいった。そして、その背中を見て、より多くの女の子たちが彼女について来るようになった。

「私たちだって、男に負けないくらい強くなれる」
「そうよ。頭も体も、鍛えれば負けないわ」

そんな声が、鬼子母神の新たな合言葉になっていった。

冬の訪れと共に、高校入試の季節が近づいてきた。アユフマとメンバーたちの戦いは、まだ始まったばかりだった。

ある夜、アユフマは夜空を見上げながら呟いた。

「ケイ、ミオ...あたしたちは必ずお前らに追いつく。そして、お前らの本当の強さを取り戻させてやる」

アユフマの心の中で、怒りと憧れが交錯していた。ケイとミオへの複雑な思いが、彼女たちを突き動かしていた。

そして、アユフマは静かに付け加えた。

「でも、もしかしたら...あたしたちの強さは、もう違うところにあるのかもしれねえ」

その言葉には、まだ自覚していない変化の予感が込められていた。

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春の柔らかな日差しが校庭を包む中、アユフマは高校の入学式を終えたところだった。必死の努力が実を結び、ついにケイとミオと同じ高校に入学を果たしたのだ。

入学式から数日後、アユフマは戸惑いながらも美術部の門を叩いた。部室のドアを開けると、そこにはケイとミオの姿があった。

「や、やっと来れたぜ...」アユフマは少し照れくさそうに言った。

ケイとミオは驚いた表情を浮かべたが、すぐに柔らかな笑みに変わった。

「おかえり、アユフマ」ケイが言った。
「待ってたわ」ミオが付け加えた。

アユフマは、目に涙を浮かべながらも強がって答えた。「ああ、ただいま」

その日から、アユフマは美術部で新たな情熱を燃やし始めた。かつての「鬼子母神」の面影は、今や彼女の筆致の中に宿っている。そして、ケイとミオと共に、彼女は新たな「HamCup」の世界を創造していくのだった。

街の向こうでは、アユフマが率いていた「勉学の鬼」たちも、それぞれの道を歩み始めていた。彼女たちの姿は、きっと多くの人々に勇気と希望を与えていることだろう。

こうして、「鬼の系譜」は新たな章を迎えたのだった。

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