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水中反転

水の入ったコップ越しに見る文字はひっくり返って見えるから、なんだか鏡を覗き込んでるみたいな気分。自分は写り込まない鏡の中の世界。そこから見る液晶の中ではイワシの群れが方向転換をする。ひらりきらり。彼らは美しいけれど、それについては無自覚だ。彼女はさっき二十五メートルプールで百メートルを泳ごうとした。つまり少なくとも三回は転回する必要があるけれど、その自身の美しさについて彼女は自覚的だ、たぶん。ねえ中華屋さんってなんでなんとか飯店ってとこが多いの〜?って言いながらチャーハンを頬張る彼女の頼んだジャスミン茶はガラス製のポットの中で音もなく開いていく。コップ越しに彼女の口がパクパクするのが見える。むせ返るほどに香るジャスミン。そうか溺れるってのはこういうことか。息継ぎの、仕方がわからない。

褒められて伸びる子です。 というか、伸びたい。