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ヒロエちゃんとの最後のデート

昔付き合ってた人ともう一度会いたいか、偶然でも会いたくないか。あなたはどっちだろうか。人それぞれとは思うけど、僕は後者だった。

僕が付き合っていたヒロエちゃんは、僕の同級生の仕事仲間だった。その同級生はどこかで知り合ったユキさんという人と結婚することになり、僕は式に招待された。同級生の仕事仲間であるヒロエちゃんも当然招待されるので、正直行きたくないと思っていた。僕らは一年前、あまり良い別れ方をしていなかった。

田舎の結婚式で参列者も多いから会わないで済むだろうか。同級生も別れたことは知っているから席をだいぶ離してくれただろうか。僕はそんなことを考えながら結婚式の返信ハガキの出席に丸を付けた。

そして式当日。僕は友人席でヒロエちゃんは同僚席だったから、だいぶ離れていた。同級生は綺麗なユキさんを連れてさぞ幸せそうにしていたが、僕はヒロエちゃんと”ニアミス”してしまわないか、そればかりを気にしていた。

披露宴は半ばを過ぎて、酔った人や余興をする人、同窓会のように友人と話す人、それぞれが盛り上がっていた。僕は「二次会は新郎新婦の同級生しか来ないから、もう大丈夫だ」などと安心していた。

そう安心しきった僕の頬を、パンのようにちぎる人がいた。ちぎる前に甘くて弱い香水の匂いがしたから、一秒でヒロエちゃんだと分かった。

ヒロエちゃんは全力で僕の頬をツネりながら、「どうして何も言ってこないの?」とニコニコ笑っていた。この人は笑いながら怒るので、僕はいつもどうしたらよいか分からなかったことを思い出した。そしてこのときも同じだった。

ヒロエちゃんは、一年前のよろしくなかった別れの話はせず、僕がいま何をしているのか、元気だったのか、僕が飼っていたペットはどうしているかなんて聞いてきた。やさしくて、大人だなと思った。

同級生には申し訳ないが、披露宴の内容はまったく記憶に残らないものとなっていた。

同級生の結婚式から一ヵ月後。ヒロエちゃんとは一年前にきちんと出来ていなかった”お別れ”をするため、もう一度会った。沢尻エリカの映画を見て、笑いながらご飯を食べて、泣きながらキスをしてお別れをした。

最後までヒロエちゃんはやさしくて、大人だなと思った。

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