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川本徹『フロンティアをこえて』を読む

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川本徹の著書『フロンティアをこえて──ニュー・ウェスタン映画論』を一章ずつ精読する。
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序章 モニュメント・バレーのパネルの彼方/第1章 歯磨きと水浴──川本徹『フロンティアをこえて──ニュー・ウェスタン映画論』を読む①

序章 モニュメント・バレーのパネルの彼方/第1章 歯磨きと水浴──川本徹『フロンティアをこえて──ニュー・ウェスタン映画論』を読む①

 川本徹の新著『フロンティアをこえて──ニュー・ウェスタン映画論』は、ドナルド・J・トランプ前大統領が大統領選挙で当選をはたす約10ヶ月前、二〇一六年一月のあるエピソードを紹介するところからはじまる。舞台はアイオワ州インターセット、ジョン・ウェイン生誕博物館、ウェインの娘アイラに歓迎されたトランプは上機嫌で会見に臨む。しかし、川本が注意を払うのはトランプの会見それ自体ではない。その視線は元大統領(

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第2章 囚われの女たち──川本徹『フロンティアをこえて──ニュー・ウェスタン映画論』を読む②

第2章 囚われの女たち──川本徹『フロンティアをこえて──ニュー・ウェスタン映画論』を読む②

 第Ⅰ部第Ⅰ章では製作年の新しい西部劇が扱われたが、第2章では現代劇に残存する西部劇的な伝統について論じられる。この章で扱われるのは、ヴィム・ヴェンダース『パリ、テキサス』(一九八四)とケリー・ライカート『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』(二〇一六)の二作である。後者はマイリー・メロイの短編小説に基づく三部構成のオムニバス映画だが、論じられるのは第一部のみとなる(原作となる短編は「分厚い本(

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第3章 崖の上のアリス──川本徹『フロンティアをこえて──ニュー・ウェスタン映画論』を読む③

第3章 崖の上のアリス──川本徹『フロンティアをこえて──ニュー・ウェスタン映画論』を読む③

 第3章を開くとまず目に飛び込んでくるのは、一九九〇年代に製作された夥しい西部劇映画のタイトルの数々である。川本はハリウッドの九〇年代を西部劇のリヴァイヴァルが起きた時代と呼んでおり、これらのリヴァイヴァル西部劇のなかには現在においても評価の高いクリント・イーストウッド『許されざる者』(一九九二)やアカデミー賞を受賞したケヴィン・コスナー『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(一九九〇)、また日本での知名度

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