痴漢にあって助けられた話
今から3年ほど前のある年の瀬の日のこと。
その日はボーナス支給日だったからか飲み会帰りの大人たちで駅はごった返していた。
当時私は精神科病棟に勤めており、精神状態のとても悪い患者さんがいたこともあって心身ともに疲弊していた。
その日は珍しく早く上がれたので、帰ってゆっくりしたいと急いで21時半ごろの特急電車に乗りこんだ。
ドアの近くに立ち、ギュウギュウ詰めの電車の中、私のサイドは少しだけ空間があった。
電車が走りだして少しすると、お尻にこれまで感じたことのない違和感を感じた。
「えぇ?」
と思って横を見ると、背の高いサラリーマンの男が私のお尻をつまむように撫でていた。
とっさに、
「やめてください!」
と声を押し殺してはっきりと伝える。
相手の男はニヤッととしており、そこで初めて酔っぱらっていることに気が付く。
もう一度
「触らないでください」
さっきより大き目の声で伝えるが、通じる様子はない。
私の顔の前に男の手がヌーンと伸びてきたところ、私は男の腕をつかむ。
「この人、痴漢です!」
そこで電車が駅に止まった。
沢山の人たちに交じって駅に吐き出されるなか、私はその男の手をつかみながら、
「この人痴漢です!」と大きい声で叫んだ。
もう、本能的にそうしていた。
腕は震えていたと思う。だが、もう恥ずかしいとかそんなことにはなりふり構っていられなかった。
私に腕をつかまれた男は酔っぱらっていて、
「ははは。。。」と笑ってふらふらしていた。
そうすると、同じ車両に乗っていたであろう30歳くらいの若い男性2人が私の近くにやってきた。
「大丈夫ですか」
「自分がこの男性見てますので、離れていてください」
「もうすぐ警備の人が来てくれるので」
警備の人が急いでやってきて、私を痴漢した男から離れたところで誘導し、
「大丈夫ですか」
と落ち着かせてくれた。
そして、
「警察を呼びますか」
と冷静に聞いた。
私は警察と聞いて、自分に起こったことの重大さにハッとし、頭が混乱した。
恐怖が後からじわじわと湧いてきて、涙がポロポロと出てくる。
「こんな時、どうしたらいいんでしょうか」
なんと答えて良いかわからず、泣きながら警備員さんに聞いた。
警備員さんは一瞬考え込み、
「受けた被害を届け出るのはあなたの権利ですよ」
と落ち着いた声で返答した。
それからは、もう怒涛のように駅員室に連れていかれたり、パトカーに乗って警察署で取り調べを受けたり、実況見分?みたいなことを会議室みたいなところで受けたり。。。
私が警察署から解放されたのは3時半だった。
私をホームで助けてくれた男性2人も0時過ぎまで取り調べを受けていたという。
助けてくれた男性2名にお礼を言いたかったのだが、警察は名前など教えてくれなかった。
「お二人ともそんなつもりで助けたわけではないから」と話されていたのこと。
もうお礼を言うことも叶わないのだけれど
あの時見ず知らずの私を助けてくれた乗客のお二人の男性
そして混乱する私に痴漢を受けたのなら、被害を訴えていいんだと勇気をくれた警備員の方
夜遅くまで調書を作成して私の話を聞いてくれた若い警部補の方
その他私の知らないところで動いてくださった方々
心から感謝します
たかがお尻を触られたくらいで
と片付けられればそれまでだけど
満員電車に乗ったあなたが悪いと言われればそれまでだけど
見知らぬ人に体を触られる恐怖・嫌悪感・恥ずかしさ・情けなさ
今思い出しても悲しく辛い。
自分がお世話になった方々に直接何かを返すことはできないけど
誰か困っている人がいたら
手を差し伸べる勇気・思いやりを持ちたい。
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