あなたへの質問

携帯ばかりみて歩く友人を街中で見かけた。声はかけなかった。心の中で、詩が一つ思い起こされた。

「今日あなたは空を見上げましたか。空は遠かったですか、近かったですか。雲はどんな形をしていましたか。風はどんなにおいがしましたか。あなたにとって、いい一日とはどんな一日ですか。」

あなたにとって、一日とは、何で埋め尽くされていますか。そうやって、あなたは道急いで、塗りつぶして、どこへ行くの。ここで時間をそうやって節約して、どこにあなたの時間は集約されていくの。微笑む時、謝る時、喜ぶ時、食べる時、笑う時、怒る時、こちらを向いてほしい。画面の向こうに、本物は、のぼくはあまりに少ないよ。

「「ありがとう」という言葉を今日口にしましたか。窓の向こう、道の向こうに、何が見えますか。雨の滴をいっぱいためたクモの巣を見たことがありますか。樫の木の下で、あるいは欅の木の下で、立ち止まったことがありますか。街路樹の木の名前を知っていますか。樹木を友人だと考えたことがありますか。」

もっともっと質問は続いていく。限りなく、続く。大好きな人に、この質問をきいてみたい。正解はない。あなたが答えようとする唇に美しさを見出す。

「この前、川を見つめたのはいつでしたか。砂の上に座ったのは、草の上に座ったのはいつでしたか。「美しい」と、あなたがためらわず言えるものは何ですか。好きな花を七つ、挙げられますか。あなたにとって「わたしたち」というのは、だれですか。」

「夜明け前に鳴き交わす鳥の声を聴いたことがありますか。ゆっくりと暮れていく西の空に祈ったことがありますか。何歳の時の自分が好きですか。上手に年を取ることができると思いますか。世界という言葉で、まず思い描く風景はどんな風景ですか。」

あなたはどんな風に答えるでしょうか。それとも、ぼくに聞き返すでしょうか。

「今あなたがいる場所で、耳を澄ますと、何が聞こえますか。沈黙はどんな音がしますか。じっと目をつぶる。すると何が見えてきますか。問いと答えと、今あなたにとって必要なのはどっちですか。これだけはしないと心に決めていることがありますか。」

ここまで、質問のキャッチボールができたなら、とうとう二人で考えたい。お互いがお互いの目を見て、声を合わせて、ふるわせて、聞きたい。

「いちばんしたいことは何ですか。人生の材料は何だと思いますか。あなたにとって、あるいはあなたの知らない人々にとって、幸福って何だと思いますか。」

もう一度、これまでの時間を振り返る。そっと振り向いときに、何が語られるのか。時代は言葉をないがしろにしている。あなたは言葉を信じていますか。

いただいたサポートは、これまでためらっていた写真のプリントなど、制作の補助に使わせていただきます。本当に感謝しています。