おじさんへの弔い

おじさんが亡くなった

小さい頃毎週のようにおばあちゃんちに集まって
毎回おじさんが来るのを待ちわびて
お馬さんとか柔道のしかけ技とか
よくじゃれあって遊んでもらっていた

小さい頃、お父さんではなくおじさんと結婚したいとよく言っていた

毎年誕生日近くになると
四輪の大きくてゴツゴツした車で家まで迎えにきて
誕生日プレゼントを買ってくれるためのデートへ連れて行ってくれた

おじさんは喫煙者だったから、
車は吹き出し口にいくつも芳香剤が取り付けてあって、人工的な爽やかな匂いが充満していたのだけど、
当時、車酔いしやすかった私には、その匂いがすこしきつく感じた

重低音のエンジンがかかりいよいよ出発するときの、
街から抜け出してどこか知らないところへ冒険に行くような特別でわくわくした感情をよく覚えている

おじさんは私のヒーローだった


中学生になると勉強に部活に忙しくなり
体が大人になっていくのに戸惑うようになって、
いつのまにかおじさんへ何時に来るか確認の電話をかけなくなり、
いつのまにかじゃれあうこともなくなり、
おじさんとの会話は部活の報告ばかりだった

大学へ進んだころには、おばあちゃんちに行く習慣もすっかりなくなって、
おじさんとはずっと会わないようになっていた


今年の春先に社会人になる妹と三人で
おじさんと会うことになった

何年ぶりかに会うおじさんは私の中のイメージするおじさんよりだいぶ老けていた

私と妹は、おじさんが若い頃に働いていたバーに連れていってもらい、
バーテンダーおすすめのほんのりピンクがかったカクテルをご馳走してもらった

静かな店内で、カウンター越しの棚にずらっと陳列されているボトルと、隣に座るおじさんを交互に見返した
なぜか背筋がいつもよりぴんと伸びた

おじさんはウイスキーをゆっくり飲んでいた

その日はその後もいくつかお店を変えて、気がついたら深夜になるまでお酒が進んでいた
おじさんは昔と同じ少ししゃがれた声でがははとよく笑っていた


今回のことは、
冬のボーナスが入ったら、今度は私がおじさんに恩返ししようと思っていた矢先だった

今、おじさんがあの日何というウイスキーを飲んでいたか、思い出そうとしてもうまく思い出せない

ただ、おじさんのことを思い出すたびに
脳裏におじさんの笑い声が反芻し、
あの日の車の芳香剤の匂いがふわんと鼻腔をすり抜ける


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