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小夏



仕事への道中、坂道をとことこ下っていたら
軽トラがすーっと近づいて来て窓からじいちゃんが顔を出し、まじまじと私の顔を見ている。
ナンパか?と思い、というのは勿論冗談で、助手席にはばあちゃんも居て、道でも聞かれるのかと思ったら、

「小夏か?」

へ?小夏?なんの事?蜜柑みたい、美味しそう。
いやいや、ただの人違いか。

「いいえ、私は小夏じゃないです。違いますねぇ」
と首を振ると、

「おー、悪いねぇ。間違えちまったよぉ」
とバツが悪そうに笑って、Uターンをして坂道を戻って行った。

そうか、私の姿を見て小夏と思い、わざわざ追いかけて来たのか。そんなに私は小夏と似ていたのか。だって7秒は顔を凝視してたもの。
その結果の、
「小夏か?」なんだから、ものすごく似てたに違いない。それともじいちゃんだったから記憶が曖昧だったのかな。それはじいちゃんに失礼か。


それにしても小夏、なんて活きのいい名前。
ぴちぴちと若々しく跳ねてそう。
きらきらと眩しそうで、私にはまったく不似合いな名前。そんな名を持つおなごに間違えられたのか。


「はいそうです、いかにも私は小夏です。」
なんて言ってついて行ったら面白かったかも、などとふわふわ考えたりしながら残りの坂道を、さっきよりぴょんぴょん跳ねるように降りて行った単純な私。

だって滅多にないから、人違い。
しかも、小夏だよ。
ちょっとなんだか、新鮮だっのでした。








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