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田舎の猫 街に行く 第四十一話

田舎の猫 覚醒する(2)


 「うぉっ、まぶしっ!」
 ラフィが叫んだ。
 
 ゴッドフィールドを形作っていた光のカーテンがウリエルを包み込み、光が周辺に満ちていく。まるで万華鏡の中に閉じ込められたかのような空間が展開していた。私たちは息をするのも忘れて、その景色を眺めるしかなかった。
 
 時間の進み方がいつもと違う。実際には1分にも満たない時間だったんだろうけど、何時間も経ったかのような感覚。それがようやく収った頃、光が人の姿を形作っていった。
 
 「また邪魔をするか、貴様……」
 天使の姿をしたソイツが声を発した。
 
 「なかなかのイケボじゃん?」
 私はそう嘯きながら額に汗をにじませた。ヤバい……コイツは今までの敵とはレベチだ……。私の本能がそう叫んでいた。
 
 「貴様さえいなければこのような……」
 最後まで言う暇も与えず、マーシャさんが右手のスタッフを投げつけた。しかしソイツは微動だにせず片手で、正確には親指と人差し指で摘まみ上げるように受け止める。そして、つまらなさそうにマーシャさんに向かって投げ返した。
 
 スタッフはマーシャさんの横をすり抜け、後ろの壁に突き刺さった。それを皮切りにリーシャが光の矢のシャワーを浴びせる。しかし、これも右腕の一払いで無効化されてしまった。光の矢に呼応して斬りかかったリーシャに対しては、その斬撃を左腕で弾く。
 
 「成敗ですわっ!」
 背後からドロップキックを食らわそうと暴れん坊兎が跳びはねるが、背中の翼で打ち据えられてしまった。圧倒的だった。故郷のグリーンフィールドにもこんなヤバいヤツはいなかった。
 
 「ふっ、動けないか。貴様も……覚……いようだな」
 ヤバい。ヤバい。ヤバい。勝てる未来が視えない。ヤツが何を言ってるのかさえ耳に入らないほど私は追い詰められていた。

ラフィ

 「そんな面して何やってんのよ、虹乃音子っ! 諦めたら……諦めたらそこで試合終了なのよっ!?」
 私の脳裏に眼鏡をかけたデ……ふくよかなオッ……中年男性の姿が過った。
 
 「動けないなら今度はこちらの番だな。ゴッド・ボーガンッ!」
 ソイツは左手を突き出すと右手を後ろに引く。すると西洋弓のような物が左手に現れ、右手には光の矢が現れた。その弓を引き絞りソイツは光の矢を放った。その矢は真っ直ぐに私に向かって跳ぶ。
 
 「フィールドッ!」
 私はその矢を止めるべく『フィールド』を展開した。しかし無情にも放たれた光の矢は私の『フィールド』をすり抜けた。
 
 「音子っ!」
 何かが私の身体を突き飛ばした……
 
 「うん……?」
 何かが私の上に覆い被さっている。触れるとソレが……真っ赤になったソレが呻いた。
 「ね……こ……」
 「ラフィ……ラフィッ!?」
 血にまみれて真っ赤になったラフィが私に覆い被さっていた。彼女は私を突き飛ばし自分の体を文字通り盾にしたのだ。
 
 「なんで? なんでラフィ……。なんでこんな馬鹿なことを……」
 「ね……こ……。負けちゃ……ダメ……。自分に負けるのは……最高にダサいから……ね」
 「……ラフィ……」
 「信じてるよ……私の……『どら猫』……」
 
 『かっち~ん!』最後のピースがハマった音がした。
 「見ててラフィ。私の全身全霊、全力全開をっ!」
 私はラフィの身体をそっと抱きしめインドアに収納するとソイツと向かい合った。
 
 「墓石に刻む名くらい名のったら? それくらいの時間はあげるわよ?」
 「ほお、立ち直るのが早いな? まぁいい、我が名はアブラムという」
 「ふぅ~ん、アブラムだかアブラムシだか知らないけど私は虹乃音子よ。そしてもう一つ……誰に喧嘩を売ったか教えてあげるわっ!?」
 「ふっ、相変わらず生意気なヤツよ」
 
 そうだ。強気にちょっと生意気に。それが私のスタイル。それくらいの生き方が丁度いいのよ。
 
 「レインボーブーストッ!」
 今こそ私が虹を纏う理由を教えてあげるわ。

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