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田舎の猫 街に行く 番外編 我が麗しのグリーンフィールド

田舎の猫 ブルードラゴン事件を語る(1)

ブルードラゴン

 目に映るドラゴンの姿はただただ圧倒的で、どこか現実感が喪失していた。私たちは襲われるかも知れないとか、逃げなければ命の危険があるだとか考える事もできず、その場に立ち尽くしていた。
 
 ブルードラゴンはゆっくりと近づいて来る。その距離が残り10メートルを切った時、私は漸(ようや)く我に返った。「あ、あれ? これヤバいんじゃない?」と……
 
 するとそんな私の気持ちを察したかのように、ブルードラゴンはその場でピタリと歩みを止めた。そして何かを伝えたそうにこちらをじっと見つめる。
 
 パニクる私は訳の判らない事をつい言ってしまう。
 「な、何? あいきゃんと すぴーく どらごにっしゅ? (私はドラゴン語は話せません)」
 
 「おねーちゃん、オモロイ人やなぁ。それドラゴン語ちゃうで。ただのイングリッシュ擬きやんか」
 
 「ど、ドラゴンが喋ったあ~~っ!?」
 驚きの余りつい叫んでしまう私。すると突然隣でパタリという音がした。思わず振り向くと、メイが気を失っていた。
 
 「あちゃ~、驚かすつもりはなかったんやけどなぁ。こん姿やとしゃあないかぁ」
 そう言うとブルードラゴンは突如として光に包まれた。

アオイ

 「こん姿ならええか? コワないよね?」
 光が収まるとそこには麦わら帽子を被る美少女の姿が……。
 
 「貴女さっきのドラゴンっ?」
 「せや、世間一般にはブルードラゴンとか青龍とか呼ばれとるな」
 「わ、私たちをどうするつもりっ!?」
 「それはなぁ……」
 「私はどうなってもいいっ。でもメイは、メイだけは助けてっ!」
 ブルードラゴンの少女は困ったような顔をして、髪をかき上げるとこう言った。
 
 「別に捕って食いやせんて。そのつもりならこんな姿にならへんし」
 
 そして彼女はゆっくりと話し始めた。
 
 「どっから話せばええかなぁ……。せや、最初に言っとくけど、私も何でここにおるかわかれへんねん……」
 彼女の話をまとめると、元々彼女がいたのはこことは違う別の場所だったらしい。そこは龍と人とが共存する世界。科学も適度に発展しており、魔法も存在していたとのこと。この世界にとても似ているとの事だった。
 
 ただ、決定的に違うのは魔素の濃さ。この世界の魔素は彼女が元いた世界よりも薄く、彼女本来の力を使う事は出来ないんだそうう。
 
 「この湖の水はな、他よりも魔素をたくさん含んどるみたいなんや」
 ドラゴンにとって魔素は生命力に直結するものなのだそうで、魔素の少ない土地で棲息するのは厳しいという事らしい。
 
 「で、まぁ……帰る方法が見つかるまで、この場所におりたいんやけどええやろか?」
 「うーん、そういう事は私の一存ではどうにも……」
 「そらそうやな。前のとこでも里の長に大事な事は相談しとったしな」
 「うん、一度帰って大人と相談して……って、バレても大丈夫なの? 絶対騒がれるわよ?」
 「それは平気や。私こう見えても前のとこではアイドルやってたんや。人に騒がれるのは慣れとるわ」
 そう言って彼女は自慢げに胸を張った。 
 
「分かったわ。じゃあ……」
 と言って私はハタと気付いた。帰る方法がないのだ。道はまだ土砂崩れで不通状態のままである。
 
 「あー、そういや道が閉ざされとったなぁ。おねーちゃんらどこ住み? 近いなら送ってくで?」
 「あ、ありがと。助かるわ……私、虹乃音子。こっちで気絶してるのがメイよ」
 「私はアオイや。アオちゃんって呼んだってや。そっちは音子ちゃんでええか?」
 
 こうしてブルードラゴン事件が幕を開けたのであった。

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