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田舎の猫 街に行く 第二十六話

田舎の猫 ファティマ村に戻る

サーシャ 

 村に着くと早速サーシャが出迎えてくれた。私がインドアから奴隷たちと移住希望の者たちを放出すると、サーシャは喜びの叫び声を上げた。 「すごぉい、男の人がいっぱいだ~。私サーシャでっす。ヨロシクね~」 うわ、思いっきり媚びってるわ。可愛いかよ……うん、可愛いね。  サーシャの可愛さに魅了されて、既に顔が蕩けきってる男もいる。ダメだぞ、触ったら逮捕だ。『いえす ろりーた のーたっち』はこの世界でも同じなんだからな。  
 
 そう思って身構えていると、サーシャにいきなり駆けよる者がいた。阻止しようとしたが、その姿を見て私は停止する。それは男達の中の1人が連れてきた8歳の妹だったからだ。出会いがない村に住まわせるのはどうかと私が懸念していた娘だ。  
 
 「サーシャちゃんって言うの?可愛いぃ~!」 娘はそう言うとサーシャに自己紹介を始めた。明るくてコミュニケーション強者の娘である。2人はすぐに意気投合して村の中へ走って行った。若い者はいいなあ……

ミーシャ

 サーシャにもお友だちができて良かったなぁと思っていると、ミーシャが現れた。
 「こんにちは、ファティマ村へようこそ。私ミーシャと申します。皆さんは私の方で案内させて頂きます」
 その話し方に私は驚いた。ミーシャってこんな話し方もできるんだ。いつもは口数が少なくてぶっきらぼうな感じなのに。
 
 「村の中を案内しますので着いてきて下さい」
 そう言うとミーシャは先頭を切って歩き出した。
 
 村の中は活気づいていた。何人もの村の女たちがこちらをチラチラ見ながら作業をしている。何をしているのかなと思って見ていると、どうやら家を建てているみたいだ。
 
 「今、村人総出で皆様の住む家を建てているんです。今日、明日の間には出来上がると思いますのでお待ち下さい」
 ミーシャの言葉に全員が安堵していた。移住するに当たって住む場所の確保は必須条件である。移住する者たちの中には女性もいるし、お年を召した方もいる。外で全員雑魚寝という訳にはいかないからね。
 
 それにしてもエルフと猫人の建築はダイナミックで速い。エルフの魔法で固めた土台にハーフが木材を運び込み、猫人が家を組み上げていく。効率的な流れ作業であっという間に家が一軒出来上がった。
 これには全員目を丸くしていた。移住を希望した男達の中には、最悪自分達で家を建てなければならないと思っていた者達が少なからずいたようだ。しかしこれを見ちゃうと出番はないんだよなぁ、残念ながら。これならミーシャの言う通り、明日までには各世帯分の家が出来上がるだろう。
 
 その後は水場や公共施設に加え、娯楽施設や商業施設等を案内され、私たちは村の広場に戻ってきた。 
 私の印象では、それ程広い村ではないけど施設は充実している感じだ。エルフの生活というのは、『自然の中に同化した隠居生活』という思い込みがあったから意外だった。酒場やカラオケなんかもあって、エルフもそういうのに興じるのかと不思議に感じたのは私だけではなかったようだ。
 
 村の広場に戻ると、ミーシャは簡単に村で暮らす上でのルールを説明した。まぁ、ゴミの処理とかご近所付き合いをする上で気を付ける事とかのアレだ。それについてはエルフの村も人間の町もそれ程違わないんだよね。
 
 「以上ですがご質問はありますでしょうか?」
 ミーシャの問いかけに反応する者はいなかった。それくらい彼女の説明は完璧だったと思う。
 「では、これから皆さんのグループ分けを行います。まずは……」
 
 ここからは大人の話だ。つまり夜のお仕事に従事できる独身男性。妻帯者ではあるがホストやバーテンくらいはOKの者。働くことのできる女性。お年寄りやまだ働けない幼い子ども。こんな風にグループ分けされ、それぞれの仕事が割り振られた。
 
 ちなみにエルフたちにとって美形であるかどうかは興味がないそうだ。自分たちが美形ばかりなので慣れてしまっていて、個性的な方が却って好まれるんだそう。エルフの村にルッキズムが蔓延ってなくて良かったな、おっさん達……
 後ね、エルフって長命種だからさ、人間のお年寄りもストライクゾーンらしいよ……。まだバットが振れるなら挑戦してみては?
 
 「それでは本日の皆様の宿にご案内します。この村には普段訪れる者もいないため、宿泊施設はないのですが……」
 
 帰らずの森によってこの村に入れる者は制限されている。だから訪れる者はほとんどいないに等しい。そこにこれだけの数の人間が訪れたのだ。明日には家が建つとはいえ、今日の夕食や宿泊する場所がないのではという懸念はあった。
 まぁ、最悪寝るところは私がインドアに招き入れてもいいし、何だったら一度町に戻ってもいいかと思っていたんだけどね。
 
 「今日のところはこちらでお過ごし下さい」
 そう言ってミーシャが案内してくれたのは、前の世界でも人気だった『健康ランド』だった。
 
 エルフの村恐るべし……

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