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田舎の猫 街に行く 第三十二話

田舎の猫 接敵する


 虹乃音子バトルモード

 ダンジョンに突入した私たちはその異様さに驚いた。覚悟はしていたつもりだったけど、そんなのは根底から覆るような異常さである。
 
 ダンジョンは大きく分けて2通りに分けられる。一つはオーソドックスな迷宮型、もう一つは塔型である。分かりやすく説明すると、前者は前の世界の有名なゲーム『リザードリー』の世界であり、地下迷宮を彷徨い最下層を目指すタイプだ。
 
 それに対して塔型とは、文字通り『ラベルの塔』のような巨大な建築物の最上階を目指すタイプ。前の世界ではVR世界に閉じ込められるアニメがあって、そこから脱出するために塔型のダンジョンを主人公が攻略していたっけ。カッコいい言い方をすれば『タワー型ダンジョン』、略してタワダンだ。廃墟になり易いのがその特徴だろうか。
 
 だけど、今回突入したダンジョンはそのどれとも違った。平原と言うべきなんだろうか? どこにも障害物がない。後ろを振り返ると入ってきた入り口が渦のようにぽっかりと開いてるだけだ。その後ろにも空間が広がっている。
 
 空の色は薄暗くて地上の薄暮に近く、瘴気に満ちているのが感じられた。でも一番異様なのはその大地だった。まるで死んだ生き物の内臓のように赤黒い色をした何かが、当たり一面に蠢いているのだ。
 
 「ダンジョンが変性している……」
 案内役のエルフの一人が呟くように言った。
 「これは私たちが知っているダンジョンではありません……」
 もう一人のエルフも顔をしかめながら言った。
 
 とにかく醜悪な造りをしている。こんな風にダンジョンを意図的に変えた者がいるのなら、そのセンスは最悪と言わざるを得ない。
 
 「きっしょっ!」
 舞いながらラフィが叫んだ。彼女から広がっているオーラの光が当たりを照らすと、赤黒く蠢く大地からいくつもの黒い淀みが湧いてきた。その淀みは次第に人の形を取り始め、私たちは取り囲まれた。
 
 こうなるとフォーメーションも何もあったものじゃない。私たちは舞い続けるラフィを中心に、それらと対峙するよう展開した。
 
 その異形の者たちは突然動き出すと、ラフィに手を伸ばした。触手のような幾つもの手がラフィに迫る。コイツら『ガムガムの実』でも食ったのかっ? 私は叫んだ。
 「ヤツらの狙いはラフィよっ!ラフィを護って!」

マーシャ

 私の声に反応してマーシャさんがスタッフを振り回し異形の者達が伸ばす手を粉砕した。流石殴り魔ハイパーエルフ。その呼び名に相応しいスピードとパワーである。
 
 ヤツらは瘴気を祓うラフィの力を失わせようとしている。そう察した私はすかさずラフィの周りに『フィールド』を展開した。これで応戦がし易くなるはず。
 
 案の定ラフィに手が出せないと悟ったヤツらは今度は私に手を伸ばす。
 「残念だったわねっ! それはこっちの思う壺なのよっ!」
 伸びてきた手をまとめて引っ掴むと私はグイッとその手を引っ張った。そして自分の方に手繰り寄せる。伸びきった手に引きずられるように数体が私の手元に飛び込んで来た。

 左フリッカーからのチョッピングライトで1体目の頭を爆砕すると、2体目には打ちおろした右手一本で体を支え、スピニングハードキックを食らわす。蹴り飛ばされて飛び跳ねる相手の体に真空翔び膝蹴りをお見舞いしトドメを刺すと、私は3体目の足下に駆け込んだ。
 
 ぐっとバネのように縮んだ体を伸ばしながら、3体目の顎にサマーソルトキックを叩き込む。宙に浮いた敵の体が落ちてきた所に右のコークスクリューブローを叩き込むと、3体目も爆散した。
 
 一瞬で3体を屠った私は次の獲物を探す。すると、ミーシャが剣で敵と戦っているのが見えた。

ミーシャ

 右、左、右と体を揺らしながら敵の体を切り裂いていくミーシャの動きには全く無駄がなく、彼女の通り過ぎた後には切り刻まれた敵の死体が残るのみだ。
 
 「負けてらんないわねっ!」
 そう呟くと私は『身体強化』のスキルを使い、ヤツらの群れの中心に飛び込んだ。
 
 そこからの乱戦は一方的な展開だった。私とマーシャさんが手当たり次第ぶちのめし、ミーシャが切り裂く。敵が湧くと同時に殲滅するという感じだった。そんな闘いをしばらく続けていると誰かが叫んだ。
 
 「音子さん後ろっ!」
 その声に振り返ると敵の頭から光の矢が生えていた。

リーシャ

 声の主はリーシャだった。リーシャの射た光の矢が敵を射貫いたのだ。私は迷わずそいつにラリアットを食らわし吹っ飛ばすと、リーシャに向かって叫んだ。
 
 「サンキュー、リーシャ! 助かったわ!」
 「油断しちゃダメですよっ!」
 リーシャの姿はいつものようにポヤポヤした感じではなく、歴然の勇者もかくやという容貌をしていた。この娘もしかしてスーパーな野菜の民の血も引いてるのか? そう思わせるほどの凜々しさを感じさせている。
 
「分かってるって!」
 私はそう答えると再び乱戦の中に身を投じて行った。

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