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田舎の猫 街に行く 第二十八話

田舎の猫 世界樹の葉を手に入れる

リーシャ

 ファンタジー名物『世界樹の葉』。この葉っぱの効能には凄まじいモノがある。
 前の世界のゲームでは、死者もHP満タンで甦るし、持ってるだけで魔力は常に補充され、体力も回復する。果てはお財布に入れておけば金運も上昇するという伝説級のアイテムなのである。
 
 「これをどこで手に入れたのっ?」
 私は思わずリーシャの襟を掴み、ワシャワシャと揺さぶりながら聞いた。
 「ちょっ、待って待って。死んじゃう、死んじゃうぅ~っ!」
 リーシャ、この娘も大概ノリがいいな……
 
 落ち着いたリーシャが語り始めた。
 「元々世界樹の葉はダンジョンから手に入る物だったのです……」
 以下要約。
 
 スタンピードが起こる前、世界樹の葉は全てダンジョン産だった。村の男たちによる冒険者グループがダンジョンから稀に持ち帰るそれは、村の財産として蓄積されていたという。
 そしてスタンピードが起こった。村の男たちは魔物と勇敢に戦い、力尽きて死んでゆく者も少なくなかった。その時に威力を発揮したのがこの世界樹の葉だ。死んだ男たちもこの葉の力で甦る事が出来たのだ。
 
 しかし永遠とも思われる魔物の群れの攻撃によって、蓄積されていた世界樹の葉も尽きてしまう。そして男たちは一人、また一人と帰らぬ人となっていった。
 
 全てが収束した時、村に残る男たちはいなかった。男たちは文字通り命を賭けて村を護ったのだ……
 
 「最後まで生き残ったのは私たちのお父さんでした……」
 リーシャは声を絞り出すように言った。彼女たちの父親は村の英雄だったそうだ。しかしその彼ももういない。
 
 「それで私たちは思ったのです。もっとたくさん世界樹の葉があったならって……」
 いつだって大切な物は失ってから気づくものなんだよね。残酷なことだけれど……
 
 そこからがエルフの凄いところだ。彼女たちは世界樹の葉を量産することにしたのだ。
 まずはダンジョンから新たに世界樹の葉を手に入れ、それを元に世界樹の苗木を作り出すのに成功した。そしてそれを帰らずの森に植え、促成栽培したのだ。
 
 そんな馬鹿な……と思うかも知れない。伝説級のアイテムを量産するなんて事ができるとは誰も思わないしね。でも、彼女たちはたった1年でやり遂げた。それはもう執念と言っても良いだろう。
 
 「次もしスタンピードが起こったらこの村は確実に滅びます。そうなる前に何とかしないとってみんな必死でした……」
 
 その甲斐あって世界樹の葉の量産は出来た。でも村を護る男たちは既にいない。次は人的補充を早急にしなければならないことにエルフたちは気づく。ミーシャの言っていた村の存続が危ういというのは、大袈裟でも何でもなかったんだ。
 
 しかしこんなお宝があればもっと人が呼べるんじゃ? そんな事を考えた私の疑問に答えるようにリーシャは続けた。
 「最初は村に永住する見返りとして、世界樹の葉を差し上げるつもりでした。でも……」
 
 世界樹の葉を餌にして釣ったとしても、非協力的な態度を取られるのではないか? この葉を巡って人同士の争いが起こるのではないか? そう懸念する声が上がったという。
 
 そこでマーシャさんが提案したのは、世界樹の葉の事は伏せて移住者を募り、村に貢献した者にこの葉を与えるというものだった。『移住者を募り』というところに若干の引っかかりを感じるのは気のせいだろう……
 
 とにかくこの葉を与えられた者はスタミナ倍増、健康増進間違いなしなのだ。皆この葉を得ようとして頑張ってくれるだろうというマーシャさんの提案は満場一致で皆から承認された。
 
 こうして私は世界樹の葉を頂けることになったのであった。ラフィによって母親に呪いをかけられた男にも。母親思いの男はきっとこの葉を母親に渡すつもりだろう。親孝行したい時には親はなしという。人生にもしもはないけれど、これが1ヶ月前に手に入っていたなら、私も大切な人たちを失わずにすんだのだろうかと思うと胸がキュンとなった。

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